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情報任務//次なる作戦に向けて

……………………


 ──情報任務//次なる作戦に向けて



 私たちはそれからガイウス将軍が待つタラシアに捕虜を連れて帰った。

 捕虜にした敵野戦軍指揮官の名前はヴァフラムという。

 ヴァフラムは気絶から目覚めたのちは沈黙を続け、何も喋ろうとしなかった。


「ご苦労様です、皆さん」


 タラシアではガイウス将軍が私たちを出迎えた。

 いつもの胡散臭い笑みを浮かべた彼が、ヴァフラムに視線を向ける。


「それが問題の指揮官ですね。あとはこちらに任せてください」


「ああ。尋問は任せる」


 ヴァフラムはそれからガイウス将軍の部下たちに引き渡され、タラシアの衛兵本部で尋問が行われることになった。


 尋問がどのように行われたかは分からないが、恐らく人道的な方法ではないだろう。

 そのことを理解しているのかソフィアやミュロンも尋問に立ち会うことはなかった。


 そのような尋問が行われて7日後。

 ガイウス将軍が司令部に私たちを呼んだ。


「まずは残念なお知らせがあります。ヴァフラムはアルダシールの居場所を知らないようです」


 ガイウス将軍はややがっかりという具合に私たちにそう言う。


「それから彼は野戦指揮官というよりも、伝道師だったようです。彼の役割は三月教徒の教えとやらで奴隷を扇動し、兵士を集めるのが仕事だったということが分かりました」


「伝道師、か。連中の教えというのは唯一の神が云々というやつか?」


「そうです。それから神のために戦って死ねば、ワインと美男美女で満ちた天国が待っているというものです。だから、三月教徒の連中はあまり死を恐れないのでしょう」


 ソフィアが尋ねるのに少しばかり呆れたようにガイウス将軍が返す。

 死んだら楽園が待っているなどと誰が分かるのだろうか?

 私だって特に悪いことはせずに死んだけれど、転生した先は地獄だったのに……。


「しかしながら、収穫がなかったわけではありません。我々はヴァフラムの尋問の中で伝道師の中のトップであり、アルダシールにも近いとされる人物の居場所が分かりました。その名はシャーリアール。ヴァフラム曰く、三月教徒のナンバー・スリーだそうです」


 ヴァフラムは組織のトップであるアルダシールの情報を持っていなかったが、それに繋がる情報は握っていた。

 それがシャーリアールという男性の情報だ。


「彼を拘束してアルダシールの居場所を吐かせましょう。そして忌々しいアルダシールを始末しましょう」


 ガイウス将軍は実にシンプルにそう言った。


「それで、具体的なシャーリアールの居場所は?」


「パラティウムと呼ばれる地方都市です。そこを根城にしているという情報があります。例によってパラティウムは三月教徒の手に落ちており、突入するのはそれなり以上のリスクがあるでしょう」


「なら、どうする?」


「いくつか手段を考えました」


 ミュロンが尋ね、ガイウス将軍が説明を始める。


「シャーリアールがパラティウムを出るまで待つ。伝道師のトップであるならば、移動する必要もあるはずです。ずっとパラティウムに閉じこもっている可能性は、まあ、3割程度だと我々は分析しています」


「3割って……」


 随分と低い確率である。


「ええ、ええ。これはあまり期待できません。それにいつまでも待てるような余裕はないのです。三月教徒の反乱は帝国南方全域に広がりつつあり、一刻も早く鎮圧しなければならないのですから」


 ガイウス将軍は私たちにそう言い、説明を続けた。


「よって、パラティウムを奇襲し、シャーリアールを拉致することを考えています。戦争においては主導権は攻撃に寄ってのみ握られるというでしょう。我々は積極的に攻撃に出る必要があります」


「……さっき突入にはそれなり以上のリスクがあると言ったばかりだが」


「リスクは承知の上です。虎穴に入らざれば虎子を得ずという言葉の通り、我々はシャーリアールを得るためにパラティウムに入らねばなりません」


 ソフィアが渋い表情をするが、ガイウス将軍はこともなげにそういう。


「しかし、安心してください。三月教徒と全面戦争をして正面から押し入ろうというわけではありません。あくまで奇襲です。警備の穴を見つけ、潜入し、こっそりと脱出するのです」


「それはそうあってほしいという期待だろう」


「否定はしませんが、策がないわけでもありません」


 ソフィアが再びそう指摘し、ガイウス将軍はにやりと笑う。


「今現在、アウルス将軍が三月教徒の拠点のひとつに対して攻城戦を仕掛けています。三月教徒はそちらに注意が向いている真っ最中です。盛大な陽動になってくれています」


 ガイウス将軍がまた味方を囮にしている。

 彼はこの手の行為に全く罪悪感を覚えないようだ。


「またパラティウムは海に面しています。三月教徒の海軍戦力が減少すれば、奇襲はより効率的に成功するでしょう。ついでに言えば西部連合が懸念している海賊も同時に叩くことができます」


 ガイウス将軍は三月教徒の海軍を叩くのには西部連合にもメリットがあると言う。

 確かに西部連合がこの戦争に介入した要因は、交易路が危険にさらされているからだと聞いているが……。


「というわけで、まずは三月教徒の海軍を叩きます。シャーリアール拉致を狙ったパラティウムへの奇襲はそれからです」


「それで、敵海軍を一気に叩く計画はあるのか?」


「敵艦隊を一気に叩くのは難しく、そしてそもそもその必要はありません。敵海軍は現在、複数の港に分散しております。主にエウドキア、コンスタニア、モルタリアの3つの港です」


 今度はミュロンが尋ね、ガイウス将軍が説明する。


「艦隊は港がなければ整備できません。よって艦隊そのものというよりも、港を目標にした攻撃を仕掛けたいと思います。パラティウムにもっとも近い港はエウドキア。このエウドキアの港湾施設を完膚なきまでに叩きのめし、我々はパラティウム奇襲に向けて準備を進めるのです」


 ここら辺はロンディウスを襲撃したガイウス将軍らしい発想だ。

 港がなければ艦隊は補給できず、行動できない。

 それを知っているからこそ、ガイウス将軍は港を襲撃し、三月教徒の海軍戦力がパラティウムをカバーできなくしようというのである。


「というわけですので、エウドキア襲撃の準備を進めましょう。我々の海軍が作戦に協力します。帝国海軍の艦船でエウドキアに接近し、魔法使いを主力とする部隊でエウドキアの港湾施設を徹底破壊です」


 ガイウス将軍はそう言い、作戦を決定した。


「作戦開始はいつだ?」


「帝国海軍との調整に暫くかかります。準備ができたらお知らせしますので、ゆっくりなさっていてください」


「そうさせてもらおう」


 ソフィアの問いにガイウス将軍はそう答え、私たちの間にリラックスした雰囲気が生じたのが分かった。

 ヴァフラム拉致から続く連戦になることが避けられたことへの安堵だろう。

 私たちはガイウス将軍の準備が終わるまでの間、宿舎で待機すべく、司令部を出た。


「リンクス、ソフィアさん!」


 そこでコルネリアが話しかけてきた。


「いろいろと話が聞きたいなって思っているんですけど、今からいいですか? お茶でもしながらロンディウス襲撃のあとで何があったのか話しません?」


「……ああ。いいぞ」


 コルネリアの求めにソフィアは頷いた。


 私たちはそれから異国のお茶を出す店に入った。

 出てきたのは何とコーヒーだ。

 この世界には存在しないのかとも思っていたが、ちゃんと存在したようだ。

 テーブルにコーヒーのカップが並べられ、異国の砂糖菓子が出され、私たちはそれを味わいながら話を始める。


「私たちの方はあの襲撃のあと帝国海軍の艦船まで逃げて、離脱しました。ガイウス将軍もアンタキア号を捨てて、脱出し、私たちはアンドロポリスに戻ったんです」


 コルネリアたちは襲撃のあとで、アンタキア号ではなく別の船で逃走したと語る。


「作戦は大成功……ということになり、ガイウス将軍を始め私たちは皇帝陛下から勲章を授かりました。それから暫くの間は戦争の英雄として中央で悠々自適に暮らしていたんですが……」


「この戦争に駆り出されたと」


「それもあるんですけど、ガイウス将軍の陰謀に巻き込まれているんですよ。彼が皇帝、元老院、軍部に次ぐ魔法使い派閥を作ろうとしているのはご存じですか……?」


 声を落としてコルネリアはそう尋ねてきた。


……………………


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