競技会//過去の因縁
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──競技会//過去の因縁
そして、競技会が開かれる日が訪れた。
開会式はロンディウスの港にある商業会館前で開かれることになっており、私とソフィアはその場所に向かう。
「わあ。凄い数の人だ……」
私たちはすでに商業会館前に大勢の人が集まっているのを目にした。
着飾った裕福そうな人々もいれば、普通の格好をした人たちもいる。
何より多くいるのはローブ姿の魔法使いだ。
正規魔法使いである白ローブも、魔法学校の生徒たちの紺色ローブも、それから独立している様々な色のローブも、関係なく集まっている。
屋台もいくつも出ており、香辛料とともに焼いた肉や魚介の香ばしい香りがする。
西部連合の国旗や西部魔法使い連盟の連盟旗もはためき、本当に大きな競技会であることが窺えた。
「恐らくは帝国中央もこの競技会に注目しているだろう」
そこでソフィアがそう言う。
「西部連合が戦争で被った打撃からどれだけ回復したか。この競技会はそれを示すための場でもある。帝国中央としてもついこの前まで敵だった相手の戦力については把握しておきたいだろう……」
西部連合は前の戦争で多くの魔法使いを失った。
それでもこの競技会を開いたのは、西部連合の魔法使い戦力は未だ健在であることを内外に示すためでもあるだろうとソフィア。
「しかし、この場でしっかりと魔法使いの人材再構築に成功したと見せつけなければ、諸外国からいらぬ手を出される可能性もある。そういう意味でも西部連合はこの場を大事に考えているはずだ」
そしてソフィアは私の方を見た。
「だからお前がここで実力を示せば、西部連合に恩が売れる。上手くやれ、リンクス」
「はい、師匠」
ソフィアからの励ましを受けて私は選手が集まる場所に急いだ。
選手は商業会館内に選手控室があると案内には書いてあったので、それに従う。
「リンクス」
「ダフネ。選手控室ってここ?」
商業会館の中にはすでにダフネの姿があった。
他にも西部連合の魔法使いたちが集まっている。
白ローブ、紺ローブ、雑多な色のローブ。
所属はいろいろながら、誰もが自信を窺わせていた。
「……おい、お前。アンドロポリスの災厄じゃないか?」
そんな魔法使いのうち白ローブの魔法使いの、まだ若い男性が私に向けてそう尋ねてきた。
まだ確信が持てないような、そんな問いかけが聞こえたのか、私に周囲の視線が刺すように向けられる。
「……そうだよ」
「クソ。やっぱりだ。アンドロポリスでリウィア隊長たちと戦った銀髪の少女。貴様、一体どういうつもりでここにいやがる……!」
その白ローブが声を荒げて私に掴みかかろうとする。
私が反射的に身を竦めたが、その手が私に届くことはなかった。
「やめなさい!」
ダフネがそう声を上げて、私と男性の間に割り入ったのだ。
「リンクスはもう西部連合の人間です。戦争は終わったと理解しているでしょう?」
「だが、俺の仲間はそいつに……!」
男性の憎しみの籠った表情を見て、私は恐怖でも戸惑いでもなく、恥を感じた。
そうなのだ。
私は大勢の西部連合の人々を手に掛けたのに、それなのに彼らから保護を受けようとしている。
それは犠牲になった人々からすれば身勝手な話だろう。
そう考えると私は深く恥じ入ってしまう。
「やあやあ! 揉めているようだね?」
そこで大きな声を上げてやってきたのは私の知っている人だった。
「デメトリオスさん!」
「魔法使いが腕力に訴えていいのは戦場だけだよ、君。そして戦争はそこの少女がいうようにもう終わった」
デメトリオスだ。彼がやってきた。
彼は私を庇うように立ち、怒りを燃やしていた男性を宥めるようにそういう。
「しかし!」
「納得できない? ならば、君はどうしたいのだね? リンクスをこの場で殺そうというのかね?」
「そ、それは……」
「できないだろう」
デメトリオスがそう説得しても、その男性は納得がいっていない様子だ。
「しかし、丁度いい機会じゃないか。今日はまさに魔法使いとしての実力を示す場所。ここで君がリンクスを打ち負かせば、君や戦友たちの名誉は回復する。それで手打ちとしておかないかね?」
「……分かりました」
デメトリオスの言葉にその男性は渋々というように頷く。
「では、お互いに名乗っておきたまえよ! これは決闘のようなものだからね!」
デメトリオスはそう言って私と男性魔法使いを交互に見る。
「リンクス」
「……ミュロンだ」
私が小さく名乗るのに、男性魔法使いはミュロンと名乗った。
彼の顔にはまだ憎悪の色が僅かに残っている。
「よろしい! あとはお互いに悔いのないように成果を残したまえ!」
「ありがとう、デメトリオス」
デメトリオスはそう言って選手控室の椅子にどかりと腰掛ける。
私とダフネは彼にこの場を助けてもらったので、頭を下げた。
「君たちを助けたわけではないよ。西部連合の魔法使いの、お互いの名誉を守っただけだ。それに君のライバルは、ミュロンだけではない。私もまた破壊競技に出るのだから」
「デメトリオスも破壊競技に……?」
「そうだ。私はもっぱら船を守るのが仕事だがね。ときには沈めることも仕事として請け負うのだよ」
私はデメトリオスも出場するのではないかと思っていたが、彼もまた破壊競技に出るという。
水を操る質量攻撃を得意とする彼だが、船をどのように沈めるのだろうか……。
「今年は楽しい大会になりそうだ! はははっ!」
デメトリオスがそう言って高らかと笑うと場の雰囲気が変わった気がした。
さっきまでは憎悪から出る刺すような視線だったのが、今はお互いをライバルとみなす挑戦的な視線に変わっている。
友好的ではないものの、憎まれるよりはずっといい。
「開会式が始まります」
そこで選手控室にそう声がかかり、私たちは選手控室の外に出る。
商業会館の外では大勢の人々があり、私たちが現れると同時に注目が集まる。
それはこれからどんな活躍を見せてくれるんだろうかという、ポジティブな色合いの視線であった。
「西部連合の市民の皆さん!」
大会主催者を代表して挨拶するのはイレーネだ。
西部魔法使い連盟の連盟長である彼女がお立ち台に立って挨拶する。
「我々は先の戦争を乗り切り、ついに独立を手にしました。長く待ち望んでいた平和が訪れたのです。今日はその平和の一助となった魔法使いたちが、日頃の鍛錬の成果を示す場であります」
イレーネは続ける。
「戦争で我々は多くの魔法使いを失いましたが、焼野となった土地が再び草原に変わるように、西部連合の魔法使い社会にも新しい芽が芽吹いていることを、今日皆さんに示すことができるでしょう」
そう言ってイレーネは微笑む。
「さあ、では出場する選手たちに盛大な拍手を!」
彼女がそう締めくくると万雷の拍手が、私たちに向けて送られた。
彼らはまだ私がアンドロポリスの災厄だと、そしてロンディウスを襲撃した人間だと知らないのだろう。
だが、爆轟魔法を使わなければ、それが発覚する恐れもない。
私はさっきミュロンから向けられた憎悪を思い出す。
彼はアンドロポリス上空で私と交戦し、私に戦友を殺されている。
ロンディウスでも家族を失った人々は少なくないはずだ。
もしも、これだけの数の民衆から同じように憎悪を向けられたら、私はきっと耐えられないだろう。
私は大衆の拍手を浴びながら、少しだけ怯えた。
それからイレーネがお立ち台を降り、司会者が交代するようにあがる。
西部連合正規魔法使いの白いローブ姿の中年男性は咳払いしてから話し始めた。
「それでは最初の競技は飛行競技です。各選手は指定されて場所へ」
飛行競技はロンディウスの港湾上空を巡るもので、ほぼ洋上を飛行する。
コースの目印は洋上に停泊している船舶で、その10隻の船舶の上空を全て通過しなければゴールとはならない。
そのためにダフネはこれまでカリクレスと洋上飛行の訓練をしていたのだ。
「ダフネ。頑張って」
「ええ。任せて」
私はダフネに小さくエールを送り、彼女はそれに笑顔で答えた。
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