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反乱都市//掃討戦

……………………


 ──反乱都市//掃討戦



 反乱を起こした都市に帝国軍が入城する。


 城門と魔法使いたちの喪失。

 それによってもはや西部連合に抵抗する力はなく、ついに守備隊は降伏した。

 しかし、降伏したからといって命が助かるわけではない。


 クイントゥス将軍は捕虜と市民の殺害を命じた。

 帝国軍は大きな穴を掘り、そこに斬首した捕虜と市民の死体を放り込んでいく。

 クイントゥス将軍は見せしめのつもりだったのだろうが、殺されると分かった市民たちは殺されまいと抵抗を始めた。


 建物内で、通りの上で、廃墟の中であらゆる場所で抵抗が続くことになった。

 守備隊が残した武具で、通りに落ちていた石で、あらゆるものを使ってあらゆる人間が帝国軍に抵抗する。

 そこは女子供の区別すらもない。


「……こんなことで反乱が収まるはずなどないのにな」


 ソフィアは再び戦闘状態になった市街地を見下ろして憂鬱そうに呟く。


「西部連合にとってこれは都合のいい恐怖になるだろう。これから都市という都市は帝国軍を前に城門を閉ざし、市民という市民が西部連合に加担する。そして、この戦争は帝国軍が撤退するまで終わらない……」


 西部連合は恐怖に震えて動けなくなるのではなく、恐怖を前に必死に抗おうとする。

 それがソフィアの言いたいことだった。

 クイントゥス将軍も、帝国も飴と鞭の加減を間違いすぎてるとソフィアは愚痴る。


「おふた方」


 そこで上空から都市を見下ろす私たちの下にガイウスが。


「先ほどはお見事でした。あれだけの技量をお持ちとは、いやはや」


「……ああ。それで?」


 ガイウスを警戒するようにソフィアが尋ねる。


「クイントゥス将軍からの呼び出しです。報酬と次の作戦について話したいと」


「分かった。すぐに向かう」


 そして、私たちはクイントゥス将軍のいる本営に向かう。

 帝国軍は本当ならば今頃は反乱を鎮圧して前進できていたのに、クイントゥス将軍自身が招いた抵抗のせいで未だ本営は都市のそばの平地に設置されている。

 それは自業自得だが巻き込まれた方はいい迷惑だ。

 そんな不満を抱きながら、私たちはクイントゥス将軍の司令部へ。


「よく来た、魔法使い」


 クイントゥス将軍はにやりと笑って私たちを出迎える。


「報酬の話と聞いた」


「その前に仕事をしてもらう」


 ソフィアはそう切り出したが、クイントゥス将軍は首を横に振る。


「あの忌々しい城門を吹き飛ばした魔法。あれをもっと叩き込んでもらおう。それこそあの都市が更地となるほどに」


「何を馬鹿な……」


 クイントゥス将軍は冗談ではなく、本気で言っている様子なのにソフィアが気づく。


「冗談ではない。お断りだ。虐殺がやりたいならば自分たちでやれ」


「何だと! 帝国軍将軍である私の命令を傭兵ごときが拒否するか!」


「ああ。拒否する。それは仕事に含まれない」


「貴様……!」


 クイントゥス将軍は腰に下げた剣に手を掛けた。


「落ち着かれてください、将軍」


 そこで声を上げたのはガイウスだ。

 彼はソフィアとクイントゥス将軍の間に割入り、クイントゥス将軍を宥める。


「閣下。今は市街地に我が軍の将兵が多く散っております。あのような爆発を起こせば、我が軍の将兵が巻き込まれてしまいますよ」


「撤退を徹底してからやればいいだろう!」


「それでは反乱勢力に逃走される恐れがあります」


「むう……」


 ガイウスが説得するのにクイントゥス将軍は剣から手を放し、獰猛な犬のように不満げに低く唸り始めた。


「将軍。彼女たちには通常の魔法で上空援護を行ってもらいましょう。それならば可能でしょう?」


 ガイウスがそう言って私たちの方を見る。


「……敵が武装しているならば倒そう。だが、民間人の虐殺に手を貸すつもりはない」


「ええ。彼らは反乱軍です。武装し、我らを殺そうとしている」


「……分かった」


 最終的にソフィアはガイウスの言葉に折れた。


「閣下もこれでよろしいですね?」


「ああ。1日も早くこのクソッタレな反乱を鎮圧しろ」


 ガイウスはクイントゥス将軍にも確認を取り、彼もまた頷いた。


「では、失礼を」


 ガイウスは私たちを連れて司令部の天幕を出る。


「……将軍は魔法を万能のものと勘違いしておいでのようだ」


 ガイウスは司令部を出ると愚痴るようにそう言う。


「私たちにもあれと同じ魔法を使えと言われました。ですが、我々にはあんな魔法は使えないというと酷くご立腹で」


「だから、私たちが呼ばれたのか」


 いい迷惑だと吐き捨てるソフィア。


「ええ。よければ今後の参考に聞かせてはくださいませんか? どうやってあの短時間であれだけ強力な魔法を?」


 ガイウスはにこりと口元を微笑ませてそう尋ねる。

 だが、彼の目が笑っていないことに私もソフィアも気づいていた。


「……企業秘密だ。教えるつもりはない」


「それは残念です」


 大げさに肩を落として落胆して見せるガイウス。

 この人はわざと道化を演じているような、そんな怪しい空気がする。


「では、我々は地上部隊の上空支援に向かいましょう。ちょうど我々の仲間から援護の要請が入ったところです」


「分かった。片付けよう」


 それからガイウスはそう言い、私たちに続くように促した。

 ソフィアと私はガイウスの後ろから飛行し、目指すのは私の2発目の爆轟魔法で砕かれた公園の周辺。


「あの神殿の跡地、見えますか?」


「ああ」


「あそこは避難民が逃げ込んでいたらしいですよ。もっともあの爆発でほとんど死んだそうですが」


「……そうか」


 ガイウスの言葉に私の手が僅かに震えるのが自分でも分かった。

 ガイウスが言っていることが正しいながら、私は無関係の人間を殺している。

 でも、ソフィアは大丈夫だって……。


「それは酷いものだったそうですよ。子供から妊婦まで死体の山だったとか。それを運び出して始末する兵士も可哀そうに。内臓がなくなっている死体まであって、運び出すのは苦労している様子でしたよ」


「……もういいだろう。仕事をするならば早くやるぞ」


 ソフィアはそう言い、ガイウスの言葉を遮る。


「おっと。失礼。では、仕事を始めましょう」


 ガイウスはそう言って地上に飛んでいく。

 地上では帝国軍が市民の抵抗に遭っている。

 その理由のひとつが私が起こした爆発だとすれば……。


「リンクス。気にするな。与太話だ。事実かどうかは怪しい」


 ソフィアはそんな私の気持ちを察したかのようにそう言う。

 私の震える手をソフィアは握り、温かさが私の手を包んだ。


「……今日はもう無理か? 無理なら休んでもいい。責めはしない」


「……いいえ。大丈夫。やれます」


 私はソフィアのお荷物になりたくない。

 ソフィアの役に立ちたいのだ。

 だから、私だけが帰って休むことだけは嫌だった。


「分かった。だが、決して無理はするな」


 ソフィアはそう言い、私を連れてガイウスに続く。

 帝国軍は立てこもった市民から投石を受け、それを盾で防ぎながら必死に前進しようとしている様子だった。


「あそこにいる敵の排除を地上部隊が求めています。準備は?」


「出来ている」


 ソフィアはそう言い、ガイウスとともに抵抗を続ける市民たちを狙う。


『偉大なる精霊たちよ。我らが敵を屠りたまえ──』


 魔力の矢が彼らを貫き、撃破していくのが見えた。

 ぐちゃぐちゃに崩れる人間の身体。

 でも、彼らは武器を持って抵抗しているから──敵だ。

 殺すのは正しいことで、間違っていない。


『偉大なる精霊たちよ──』


 私は詠唱する振りをして魔力の矢を放つ。

 私の魔力の矢はソフィアたちの矢と同じように敵を砕く。


 私は傭兵だ。

 自分に言い聞かせる。

 これは戦争で、私たちの仕事だと。

 不思議と敵を殺している間は、さっきよりも落ち着けた。

 少なくともこの殺人は正しいのだと言えるから。


……………………

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