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帝国の最後通牒と、欠陥兵器『魔晶爆弾』

俺たちはそのまま代官の屋敷へと乗り込んだ。

執務室にはシャルロッテの他に、肥満気味で派手な指輪をいくつも嵌めた町長と、数人の有力者が集まっていた。

「シャルロッテ伯爵令嬢。貴女を外患誘致の容疑で拘束します」

エリスの言葉に、室内は騒然となった。

町長たちは顔を真っ赤にして反論したが、カティアが突きつけた手紙を見て、言葉を失った。

「そ、それは……住民を守るために、やむを得ず……!」

町長が震える声で言い訳をする。

一方で、シャルロッテは力なく椅子に座り込み、蒼白な顔で俺たちを見上げていた。

「捕らえなさい、カティア」

歩み出るカティアの前に、立ちはだかるミルフォード騎士団員たち。

「どけ。貴様たちなど、何人いても私の相手にはならないぞ」

「どくものか! 外患誘致の罰は死罪のみ。シャルロッテ様を守るため……お前ら全員この町から生きては出さん!!」

シャルロッテの顔がますます青ざめ、体がふらふらと揺れた。

そう、外患誘致は死罪のみの重罪だ。

エリスはいつも正しいが、罪状まで言ってしまっては、最後まで抵抗するだろう。

ただ、カティアはだいぶレベルが上がっているはずで、彼女の言うとおり一人でも騎士団員全員に圧勝することはまず間違いない。

「ちょっと、レオン。まずいわよ」

セレスティアが耳打ちをしてきた。

「ここで戦いになったら、まずいわよ」

「何がだ? カティア殿の腕なら大丈夫だよ」

「そうじゃなくて、ミルフォード騎士団が忠誠を誓っているのは、あくまでミルフォード伯爵なんだから。シャルロッテ嬢を守ると口では言っているけれど、伯爵が帝国と通じていて、いざとなったらシャルロッテ嬢に罪を着せるつもりでいるのなら、あの騎士団員たちは戦闘のどさくさで彼女を殺すよう密命を帯びているかもしれないわ」

「!!?」

「そうしておいて、自分の娘が無実の罪で殺されたと主張して、周りを巻き込んで堂々と寝返りかねない。シャルロッテ嬢には生きて、知っていることの全てを話したうえで、裁かれてもらわないといけないわよ」

さすがはセレスティア、王太子殿下の婚約者だっただけあって、貴族のやりそうなことをわかっている。

「ありがとう、姉上」

こればかりは、俺の持つゲームのプレイ知識ではどうにもならない。

「……お待ちください、エリス様。私はシャルロッテ嬢をよく知っていますが、彼女が帝国の正規軍を招き入れるなんていう大それた計画を、詳細まで知っていたとは思えません。彼女はただ、町長たちの傭兵を雇って守りを固めるという説明を信じ込まされていたのではないですか?」

シャルロッテは驚いたように俺を見た。

「……レオン様……そう、そうなのです! 私は住民を守るために傭兵を雇うと……そう聞いていただけなのです! 誓って帝国軍などとは……」

「なるほど」

エリスは頷く。

「住民のためを思っていたがゆえに、利用されたということですね。大変でしたね」

「エリス王女殿下……」

「感情的には私も理解できますし、調査の結果死罪を免れることもあるでしょう。しかし、あなたの部下が王国を裏切っていた事実は変わらないので、重い処分は覚悟してください。当然、これからの調査への協力の姿勢にもよりますが……」

エリスの言葉に、ミルフォードの騎士団員たちは剣を下ろすが、処分を免れることはないと知ったシャルロッテは絶望に打ちひしがれ、泣き崩れる。

その時――

「報告! 報告します! 森から魔物の大群が町に向かっています! その数、数百!!」

見張りの騎士が、扉を突き破る勢いで駆け込んできた。

さらに、その背後から悠然とした足取りで、一人の男が部屋に入ってきた。

帝国の軍服を纏い、左目に深い傷跡がある中年の男だ。

その全身からは、戦場を幾度も潜り抜けてきた熟練の武人の威圧感が漂っている。

門番が数人がかりで止めようとした気配があったが、男はまるで気にした様子もなかった。

「失礼する。私は帝国軍千人隊長のヴォルフ。王女殿下、これ以上の混乱を避けるため、我が軍の提案を受け入れていただきたい」

ヴォルフと名乗った士官は、冷酷な笑みを浮かべて続けた。

「魔物の軍勢はすぐそこまで来ている。今この町を救えるのは、境界線で待機している我が帝国軍のみ。条件は、この町の帝国領への正式な編入。拒否されれば、我らは一歩も動かぬ」

町長たちは「助かる道があるなら」と、ヴォルフの提案を諸手を挙げて歓迎した。

「エリス王女殿下! どうか決断を!」

「数百の魔物、ですか……」

呟いて沈黙するエリス。

シャルロッテが立ち上がり、涙を流しながらエリスを睨みつけた。

「やっぱり……あなただって、どうしようもないじゃない! 帝国軍だろうが何だろうが、頼るしかないじゃない! 私と同じよ!! 私が死罪ならあなたも死罪よ!!」

「帝国にこの町を引き渡すことはできません」

「王女殿下は、住民の命よりも王国の体面の方が大事なの!? このままでは皆、魔物に食い殺されてしまうのよ!? 民を見捨てる王族なんていらない!! そんな人間に、住民のためにどんなことでもしようとした私が、どうして罰せられないといけないのよ!!」

エリスは唇を噛み締め、沈黙した。

王家としての使命と、目の前の命。

しっかりしているとはいえ、一人の少女であるエリスには重すぎる選択だ。

「……エリス様、帝国軍の助けなんて、必要ありません」

俺は静かに、だが全員の耳に届く声で言った。

「何を馬鹿な。お前たち数人でどう戦うつもりだ」

ヴォルフが嘲笑する。

「ここは国境の町。今でこそ魔族との戦いのために人類同士の戦争は控えられているが、かつて王国と帝国は衝突を繰り返していた。この町には当時からの備蓄の『魔晶爆弾』が大量に眠っているはずだ」

俺は町の地下倉庫を調査した際に見つけた、古い木箱を思い出していた。

魔晶爆弾は、一撃で大抵の魔物の装甲を貫通する威力を持ちながら、着弾と爆発のタイミングが合わず、「狙った場所に当たらない」と忌避された欠陥兵器だ。

欠陥兵器だが、作りやすさと扱いやすさで、大量に作られて大抵の前線の砦には最後の抵抗の手段として備蓄されている。

「俺が囮になって、魔物の軍勢を町の北に誘導する。住民全員で、北の高台から、崖を登ってくる魔物に魔晶爆弾を何も考えずに投げ続けるんだ」

「無理よ、レオン! あれは熟練の兵士でも効果的には当てられないわ!」

セレスティアが叫ぶが、俺はエリスの手を取った。

「エリス様がいれば当たります。エリス様の『祈り』は、こういう戦いでこそ真価を発揮する」

エリスは俺の手を強く握り返し、覚悟を決めたように頷いた。

ヴォルフはその様子を冷ややかに眺めていたが、最後に「好きにしろ。ただし失敗しても我らを責めるな」と吐き捨て、部屋の隅へ退いた。

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