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姉は破滅確定のチュートリアル戦闘キャラ

王立学園の中庭は、冬の光が白い石畳に反射し、澄んだ空気が肌を刺すように冷たかった。

その中心で、平民の少女ステラが王太子アラン・アストレアに向かって笑みを向けていた。

栗色の髪が肩で揺れ、素朴な顔立ちの中に冒険者らしい芯の強さが見える。

「アラン様、私と一緒に魔の森へ行きませんか? 二人で魔王を倒して世界を救うために、これから強くなりましょう!」

金髪を短く整えたアランは、若さゆえの自信をそのまま形にしたような表情で頷いた。

「わかった。どんな時でもお前を守るから、安心してくれ」

その瞬間、鋭い声が空気を裂いた。

「そのようなことは許さないわ!」

白銀の髪を背に流し、光を纏ったような気品を持つ少女――姉のセレスティア・フェルディナが歩み出た。

宝石のように澄んだ瞳は怒りよりも正義感の強さを宿している。

「ステラとかいう平民の娘! あなたの未熟な腕前で王太子殿下を連れて行こうなど、言語道断です! そのまま挑めば、二人とも命を落とすのが関の山でしょう! どうしてもと言うのなら――まずはこの私を倒してからにしなさい!」その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。

目の前の光景が、これまで何度も見た光景と完全に一致していたからだ。


――思い出した。

ここは、俺が前世で遊んでいたシミュレーションRPG「アストレア戦記」の世界だ。

このゲームは、主人公を選ぶことで物語の視点や仲間の構成が変わるのが特徴で、ステラはその中でも王道ルートの主人公だった。

現代日本で暮らしていた前世の俺がどうなったのかは知らないが、気付けばこれまでの十数年間、アストレア戦記の世界の人間として生きていた。

それも、序盤に登場する悪役令嬢、セレスティア・フェルディナの弟として。

作中では、姉を応援して主人公たちを貶す意地の悪い貴族で、醜悪なグラフィックのキャラクターとして一瞬表示されただけだったが……。

どうしてよりによってこんなキャラクターに転生してしまったのかと、嘆いている暇はなかった。

今、目の前で始まろうとしているのは、プレイヤーに「戦略次第で能力差を覆せる」ことを教えるためのチュートリアル戦闘イベントだった。


セレスティアは、ステラが主人公のストーリーで王太子を仲間にしようとした際に立ちはだかる敵で、ゲーム序盤の圧倒的な壁として登場する。

レベルも能力も高く、スキルも破格の性能だ。

しかし、挑発に乗りやすく、詠唱の長い光線魔法に頼りすぎるため、位置取りを工夫されると簡単に崩れる。

ステラが正しい手順を踏めば、どれほどセレスティアが強くても必ず負けるように設計されていた。

つまり、ゲームではセレスティアの敗北が確定しているイベントだった。

そして敗北すれば、ステラに惹かれたアランからセレスティアは婚約破棄され、フェルディナ家は没落する。

俺はその未来を知っている。

知っているからこそ、止めなければならない。

「姉上、待ってくれ!」

駆け寄ろうとしたその瞬間――騎士科の取り巻きが俺の前に飛び出してきた。

「うわっ……来るなッ!」

「目が合った……最悪だ……!」

彼らの顔が一瞬で青ざめ、次の瞬間には怒りとも恐怖ともつかない表情に変わった。

「いや、お前ら、自分から飛び出してきてその反応ってどうなんだ……」

話しかけた瞬間、彼らの体が反射的に後ずさりする。

「しゃ、しゃべった……!?」

「相変わらず不細工で気味の悪い男だ。気が遠くなるから近づかないでくれ!」

「貴様、何を企んでいる? その顔で近づいてくるなんて、どう考えてもろくなことじゃない!」

「そうだ、絶対何か裏がある! 止まれ、今すぐ止まれ!」

俺はただ、セレスティアを止めたいだけだ。

だが、彼らは俺の言葉を聞く前に、悪意ありきで判断してくる。

「何も企んでなんかいない! 俺は姉上を止めようとしているだけだ!」

「黙れッ! 声を聞くだけで鳥肌が立つんだよ!」

「これほどまでに我々の心の平静を失わせるとは……さすが人類史上もっとも醜悪な男……!」

一人が剣の柄に手をかけた。

本気で斬りかかるつもりだ。

俺の顔を見るだけで、理性よりも本能が先に動くらしい。


こういう反応は、今に始まったことではない。

物心ついた頃から、俺はずっとこうだった。

泣き出す子ども、逃げる動物、怯える大人。

大抵の人は攻撃をしてくるか逃げるかするし、話し合いなんてしようがない。

俺が何を言っても「醜悪な外見だから」「雰囲気が不気味だから」という理由で、邪悪なことを企んでいるに違いないと決めつけられる。

この世界で生まれてからずっと、俺はそういう存在だった。

両親もセレスティアも、そして親族も、美男美女揃いの家系で、俺だけそんな異常な醜さで生まれていた。

いきなり斬りかかられてはたまらないと、黙って引き下がる。

アランとステラとその取り巻きは、セレスティアを連れて決闘演習場に向かって歩き出した。

「……レオン様、放っておいてよいのですか? 王太子殿下とセレスティア様の関係が悪くなると、フェルディナ家にもよくない影響があるのでは?」

後ろから、婚約者のシャルロッテが心配そうに声をかけてきた。

淡い茶髪を編み込み、控えめな雰囲気の令嬢だ。

こんな俺でも、侯爵家の令息なので婚約者がいる。

数え切れない相手に断られたが、姉のセレスティアが王太子殿下であるアランの婚約者となり、ようやく決まった婚約者だった。

今後勢力を増すであろうフェルディナ侯爵家と繋がりを持つための、政略的な婚約なのは間違いないが、俺には本当に嬉しい婚約だった。

セレスティアが破滅してフェルディナ侯爵家が没落すれば、俺とシャルロッテの婚約も消えるだろう。

そうなった後、俺は一生、誰にも選ばれない。

可愛い奥さんと幸せに暮らす未来が消える。

そうならないためにも――セレスティアを守り、ゲームの確定イベントを俺が変えなければいけない。

「……仕方ない。俺も行くよ」

俺はセレスティアの隣に立ち、決闘の場へと向かった。

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