後編
これで完結です。
ローキエウとの条約更新の本会議は、
王宮最奥の会議室で開かれた。
宰相、外交局、財務部、軍務部、ローキエウの大使。
各部署の官吏たちが慌ただしく出入りしている。
王太子エイドルフと新たな婚約者ロザリアが
たいそう華美な衣装で席につき、
国王陛下の登場で会議開始の鐘が鳴らされた。
◇
「我々は更新に前向きです」
ローキエウの大使が穏やかに切り出した。
「ただエイドルフ殿下の先日のご意見は……少々懸念材料でして」
エイドルフは椅子にもたれ、薄く笑った。
「懸念?我が国は対等を望んでいるだけだ」
「ほう、対等と?」
大使の言葉に、エイドルフの頬が引きつった。
国王陛下が低い声で問う。
「エイドルフ。お前は何を言った」
「誇張ですよ父上、大使殿が少々過敏なだけです」
エイドルフが机を叩いた。
自分が主役だと示すために。
「更新条件が気に入らぬなら破棄も辞さないと、そう申し上げたのです!」
――言ってしまった。
私の視界に、白い火花が散った。
未来の失敗が、現実の言葉に重なった瞬間。
会議室が凍る。
国王陛下が、ゆっくり立ち上がった。
「エイドルフ、お前は何を考えている」
「我が国が折れる必要はないのです!」
エイドルフは自信ありげに答える。が、
国王陛下の声は重かった。
「・・・お前が折れない代わりに、我が民を折るつもりか」
「そ、それは・・・最新鋭の軍備や・・・」
「そ、そうですわ!我々貴族を守る盾になれば民草も本望でしょう!」
劣勢と見たのかロザリアも慌てて口をはさむ。
「戦になれば死ぬのは兵と民だ。
お前たちは王太子とその妃でありながら、血を、命を、理解していない」
国王陛下は場違いに派手な衣装を着ている二人を強く睨んだ。
「ロザリア、君は王太子妃の器ではない。
そしてエイドルフ、お前もだ。加えて最近の狼藉は目に余る」
「――退席せよ。今この場で、“王家の席”から追放する」
厳しい表情をした国王。
彼から放たれた言葉を、聴衆は理解しざわめきだす。
「そ、そんな!」
エイドルフの顔から色が消えた。
ロザリアが崩れ落ちるようにエイドルフへ縋るが、
エイドルフは、言葉を探し、何も見つからず、口は開いたまま。
「さあ、連れていけ!」
王の言葉にどこからともなく国王直属の騎士が現れ、
喚く二人を捕らえ、有無を言わさず会場の外へ連れ出していった。
誰も同情しなかった。
民を軽んじる言葉は、この国で最も重い罪だ。
ローキエウ大使が静かに言った。
「……貴国の意向は、理解しました。では協定更新は――」
(ここだわ・・・!)
私は一歩前に出て、静かに手を挙げた。
「陛下。発言の機会を」
国王陛下が頷く。
「セレスティナか、許す」
私は深く一礼した。
「私に交渉権をいただけませんか」
ローキエウの大使が静かに席を立つ。
「我々も交渉相手が変わるなら、改めて協議の場を設けましょう」
「セレスティナ」
「はい」
「……お前のような者が必要だ」
「外交顧問として任命する。ローキエウとの交渉に携われ」
私は深く頭を下げた。
誇りが胸の奥で静かに鳴った。
◇
会議室を出て、扉に背を向け、歩き出す。
すると隣にアーヴィンが並んだ。
「……セレスティナ様ご自身の未来は、見えるんですか」
「私には、他人の失敗しか見えません」
私が答えると、彼は小さく笑った。
「じゃあ、僕が見ますよ」
「あなたが選ぶ未来を、隣で確認していきます」
灯が柔らかくほどける。
私は一度だけ、足を止めた。
王妃陛下の形見――小さな護符を、掌の中で握る。
『逃げないで。あなたの目は、国を守る目になる』
「仕切り直しですね」
誰に聞かせるでもなく、私は呟いた。
そして再び歩き出す。
国を守るために。
私自身の未来を、今度こそ選ぶために。
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