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クズ男に二股され、浮気相手の女を好きになりました。  作者: 夏みかん


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3/3

不器用な君は唯一の光

マナ視点です

マナは、チナツのことを親友だと思っている。

そう言い聞かせている、と言った方が正しいのかもしれない。

放課後、2人で並んで歩く時間。背が高いチナツは、歩幅が大きくいつも歩くのが早い。でも、私と歩く時はこちらのペースにさり気なく合わせてゆっくり歩いてくれる。それがなんだか嬉しくて、いつまでも歩きたくなってしまう。

「マナ、今日寄り道する?」

私が家に帰りたくなくて落ち込んでいる時、チナツは寄り道に付き合ってくれる。

話すようになって最初の方は私からしつこく誘って、チナツが渋々ついてくる、という感じだったのが、最近ではチナツが誘ってくるのがお決まりのパターンになっていた。

チナツと過ごしていると、普段は空気の抜けたように萎んでいる心が、一気に軽くなる。

初めて出来た親友と呼べる存在に、私は酷く浮かれていた。


無表情なのに、時々見せる小さな変化を見逃さないようにする自分がいる。

他人に興味なさそうなのに、私のことはよく見てくれることに優越感を感じている。

そして――チナツのそういう一面を、誰にも知られたくないと思ってしまう。

(ダメだ、同性の友達に慣れて無さ過ぎて、どうしてもチナツを彼氏みたいな存在として考えちゃう。親友に対して、嫉妬とかヤキモチとかはおかしいよね。…でも、こんな風に友達との関係性に悩むのも、新鮮で嬉しいかも)

チナツはいつも、私に今まで起こり得なかった幸せな体験をさせてくれる。私にとってチナツは、いまやかけがえのない存在だった。


けれど、そんな穏やかな時間の中に、いつも冷たい棘が刺さっていた。

私は、自分の本当の姿をチナツに見せることができない。

チナツが私のために怒ってくれたり、大切に思ってくれたりすればするほど、私の奥底にある「汚れ」が浮き彫りになるようで怖かった。


ある日の放課後。いつものように私が一方的に他愛ない話を捲し立てていると、チナツが立ち止まった。

「マナ」

その声は低く、どこか突き放すような冷たさを含んでいた。

「……なに? 急に改まって」

私は動揺を隠すように、いつものように笑ってみせる。けれど、チナツの瞳は笑っていなかった。

「マナって、私に何も話してくれないね。マナは私のこと親友って言うけど、一切心を開いてないじゃん」

心臓がドクン、と大きく跳ねた。

「そんなことないよ! 私はチナツに隠し事なんて――」

「嘘つかないで。いつも、元気がない時はレオに慰めてもらうのに、私に対してはいつも一線引いてたよってくれない。…私って、そんなに信用ない?」

チナツは冷たく私を見つめた後、背を向けた。

「……ごめん。もう、こういうの疲れた。少し距離を置こう」

追いかけようとした足が、すくんで動かない。

いつも私のペースに合わせてくれていたチナツが、今は驚くほどの早さで遠ざかっていく。

私は独りぼっちになった道で、震える手を押さえつけることしかできなかった。


学生寮の自室に戻り、暗闇の中で膝を抱える。

チナツに嫌われたくない。でも、本当の私を知られるのも、同じくらい嫌だった。


昔から、私はこの容姿と愛嬌のせいで、望まなくても誰かに愛され、そしてそれ以上に誰かに憎まれてきた。

中学生の時は、女子たちから「私の彼氏を奪った」「男教師に色目を使って成績を上げてもらっている」なんて、根も葉もない噂を流された。否定しても誰も信じてくれず、私はいつの間にか「誰とでも寝る女」というレッテルを貼られていた。

でも、一番壊れていたのは家だった。

シングルマザーの母は、寂しさを埋めるように次々と彼氏を家に連れ込んだ。

私が成長し、容姿が子供から女に変わっていくにつれ、母が付き合っていた男達は、母ではなく私に好意を持つようになっていった。

母に嫌われたくなくて、私は必死に母の男達を避け、告白されたことも黙っていた。けれどある夜、母が家を空けたタイミングを見計らい、男達は結託して獣のように私に襲いかかってきた。

必死で抵抗し、間一髪で逃げ出した私を待っていたのは、母の救いの手ではなかった。

「このアバズレ! 私の男を誘惑したんでしょ!」

母は私を庇うどころか、汚らわしいものを見る目で私を罵った。

それ以来、母は私を憎むようになり、私は追い出されるように、寮のあるこの高校へ入学させられたのだ。


未遂だったとはいえ、私の身体は男どもに汚された。そして実の母親にすら「アバズレ」と呼ばれた私が、綺麗な人間であるはずがない。

(でも、チナツだけは……チナツだけには、そんな風に思われたくなかった)

純粋で、不器用で、まっすぐに私を見てくれるチナツ。

彼女の隣にいる時だけは、自分が綺麗な人間になれたような気がしていた。その光を失うことは、今は何よりも恐ろしかった。

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