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第9話 おいしい食事のせい


それにしても早い。

これだと、もう朝早い段階で手紙が大地の君に渡っていたことになる。


標の君は、やや茫然としている。

まさか兄君が現れるとは思っていなかったんだろう。


まだ息が切れていることもあって、言葉が出ない。

「あの・・」

「どうしてエシルの家にいる。」

「ど・・」

詰め寄られて、青ざめている標の君の前に、思わず割り込む。


「おいしい食事を食べ歩きするためです!」

びっくりした大地の君は、私を穴が開くほど見つめた。

ああ、イケメンだなぁ。

「食べ歩き?」

「そう!王宮の食事がまずくて!」

いいのか、こんなこと言って。

でももう、言い直すことも難しい。ここは押し切る。


「冷たいし!しょっぱいし!臭いし!だから標の君はおいしい食事が恋しくなっちゃったんです!」

誰が何と言おうと、それで押し切る。

大地の君は、何か言おうと口を開けたが、何も言わずにもう一度閉じて、ただ

「うーん。」

と唸った。しばらくして。


「食事か。」

大地の君は一声つぶやいて考え込む。

「そうです。」

お願いだから、そういう事にしておいて。

大地の君は、私の心の中の願いを見抜くように、にやりと笑った

「エシルの家の食事はうまいのか?」

「お、おいしい、です!」

これは標の君だった。


おおー。頑張れ。

「そ、それに、みんなで食べるので、楽しいです。」

あ、そんな風に思ってくれたんだ。

嬉しい。


私がにまにましていると、大地の君は、ふふんと鼻で笑って私に向き直った。

「それで、お前は何者だ?エシルの縁者か。」

「え、エシルの姪の、ディラーラと申します。」

「男の格好をしているが、何故だ?」

あ、そこ突っ込みます?


「う、動きやすいからです。今、筋トレ中だったので。」

標の君のブリオーとブレーを借りたのだけど、正直それもダラッとして動きにくいので、上のブリオーの裾をぎゅうぎゅうにブレーに押し込んである。

「筋トレとはなんだ。」

「えー。運動不足を解消する、ちょっとした体操です。」

「ふーん。」


大地の君は、あごに手を当てて考えながら、私と標の君を見比べた。

「手紙を寄こしたのは、お前だな?」

鋭い目で見られて、緊張する。

「そ・・うです。」

「なぜだ。見たところ、標はまだ王宮に帰るつもりはなさそうだ。」


ここからが、正念場だ。

標の君の未来を、なんとかして救わなくちゃ。

「逃げていても仕方ないでしょ。このままでは、大地の君に誤解されたままですから。だったら、ご相談して王宮の料理人を替えてもらえば済むことでしょう。」


そう。

とにかく、大地の君をブチ切れさせたままではダメだ。

もうすぐ南の国との戦いが起こる。


原作では、その戦いに送られた標の君は戦場で負傷し、破傷風様の病気にかかって、生死の境をさまようのだ。

しかも、なんとか一命をとりとめた後も、その後遺症に苦しめられ続ける鬱展開。


だめだめ。

文章で読んでいる時は、窶れた美少年も悪くはないと思うけど、こうやって目の前にある美しいお顔が、この先窶れるなんて、あんまりにももったいない。


標の君は、私が守る。


その肝心の標の君は、ちょっとオロオロしている。

頑張れ。負けるな。

「お、王宮にはいずれ戻ろうと思っていました。」

「本当に?」

うん。嘘です。

本当は、エシル将軍連れて、どっか西の方の国に亡命しちゃおっかな?とか思ってたよね。

でもエシル将軍から今の地位を奪うのも忍びなくて、ずっと迷ってたんだよね。

知ってる。


砂嶺国からの攻撃がなければ、そうしてたかもしれない。

けど、宣戦布告の知らせを聞いて、標の君は、自分でも何か役に立つことがあるかもしれないと、王宮に戻るのだ。


ま、いずれ戻るなら、今戻ったほうが良い。


「では俺と一緒に来い。」

大地の君にそう言われて、標の君はちょっと言葉に詰まる。

「どうした。やっぱり嫌なのか。」

「く、靴が!」

ごめんなさい。もう一回割り込むわ。


「今、靴を作っていて!明日できるんです!」

「靴?」

大地の君は、弟の靴を見た。

ね。ボロだよね。


「それが出来てから、戻ります。ね?」

標の君に問いかけると、美少年はうんうんとうなずいた。

「王宮に届けさせればよいではないか。」

真っ当な意見に、言い返す言葉が見つからない。


「に、荷物をまとめるのに時間がかかります。」

「後で、王宮に届けろ。」

問題ないだろう?という表情の後、大地の君は、私を見てまたにやっと笑った。


「お前が必ず王宮まで送り届けるというのであれば、明日まで待っても良いぞ。」

「え、私が?」

「そうだ。もしお前が標を見失ったら、お前の首をはねる。よいな、標よ。待つのは一日だけだ。その間に、王子宮の料理人は入れ替えておく。」


颯爽と、大地の君は身を翻す。

カッコいい。


いや待て待て。

今サラッと私の命がかかったよね?


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