第8話 速攻
朝、鳥の鳴き声を聞きながら、考える。
もうそろそろ、大臣も手紙を読んだ頃だろうか。
こちらのでの生活もやや慣れて来ると、ベッドの固いのがちょっと気になる。
スプリングなんてものはなくて、どうやら藁のマットレス。その上に羊毛の薄い敷布団。
気候的にそろそろ秋口だろうと思うけど、日が沈むのがめっちゃ遅くて、昇るのが早い。
蠟燭いらず。
今何時か全然分からない。
昨日、メルト軍務尚書あてに、エシル将軍家の者からですと手紙を送った。
手のひらサイズの紙だけど、ちゃんと丸めてシーリングした。
メルト大臣は不在で、本人に渡ったかは分からない。
でもきっと読んだはず。
そして標の君のサインを見てびっくりするだろう。
国王と王太子に知らせなくてはと思うはず。
そして推測する。エシル将軍家の者が手紙を届けに来たという事は、標の君は、エシル将軍家に滞在しているに違いない。
今日、王宮に登城して、そのことをきっと奏上するだろう。
大地の君は、手紙を見てこれが本物かどうか怪しむかもしれない。
だけどよくよく考えた末、とりあえず確かめに来るだろう。
うんうん。
早ければ今日。
遅くても明日には、大地の君か少なくともメルト大臣から連絡があるに違いない。
「何をウキウキしてるんだ?」
朝食を食べていて、エシル将軍に怪しまれた。
おおっと。いけない。
エシル将軍と大地の君が鉢合わせしては、元も子もない。
「明日、靴が出来るんですよね?楽しみ!」
とごまかす。
「そうだな。お前に裁縫の心得があるって事の方が、気になるがな。」
「えー。どうしてですか?」
「ミッテに聞いたところでは、お前は結構なぼんやりさんらしいじゃないか。メシも食わずに寝ちまったりとか。」
おおっと。
そう言えばそんなこともありました。
「標の君がいらっしゃるので、頑張っているんです。」
と、主張してみる。
エシル将軍は、まあ確かにあの夜着はよくできていた、と独り言ちている。
朝食の後、将軍はまた、詰所に出かけていく。
王都に戻っているのがばれないように、徒歩。かつ深々とマント。
おそらく部下にも箝口令を敷いているだろう。
いってらっしゃーい。
よし。
標の君と二人で将軍を見送ると、後は特にすることもない。
一緒に筋トレしましょう、と標の君を誘ってみる。
あのアバラはいただけない。
タンパク質たっぷりの食事を取ってもらって、効率よく筋力アップを目指す。
「君は変わってるね。」
一緒にボクササイズをやりながら、美少年はあきれ顔だ。
「普通女の子って、お茶を飲みながら刺繍したりとかするんじゃないの?」
「まあ、そんなこともします。」
ジャブジャブフック!
スカートが邪魔なので、標の君の服とズボンを借りたら、ミッテさんに恐ろしいものを見るような顔をされた。
膝上げからキック&キック!
まあ、皆さん、基本的にはダラッとしたワンピースですからね。
中はノーパンのことも多い。
なので、ちょっとでも足を見せると、はしたないとか言われる。
ズボンだったらいいじゃん、と思うのは私だけかも。
標の君は、あっという間に息が上がった。
体力ないなぁ。
馬に乗るので、体幹はある程度しっかりしてるんだけど、メンタルやられて寝込みがちだったからか、体力はあんまりなさそうだ。
ちなみに、ディラの体も、めっちゃ運動不足だった。
ほぼ一緒に動けなくなった。
え、嘘。もうちょっとマシだったよね。
大学へ通うのにいつも駅からジョギングして鍛えた、私のカモシカの足はどこへ行ったの。
二人で庭でゼェハァしていると、門番のおじさんが走って来た。
「お嬢さん、メルト様の御遣いがいらっしゃってます。」
「はい?」
誰。御遣い?
「お通ししていいですか?」
「あー、はいはい。」
メルト大臣。
よし。話は通じた。今から急げば、今日か明日には大地の君をこちらに呼べるかもしれない。
息が切れて、よろよろと屋敷の中へ戻ろうとすると。
ばたばたばたっと人が走る足音。
そして
「標よ。こんなところにいたのか。」
ふおー。
めっちゃ好きなタイプのイケメン来た。
標の君によく似た黒髪、黒い瞳。
きりりとした顔立ち。
すらっと背が高くて、かつしっかりめの胸板。
大地の君キター。
だよね?
大地の君だよね。