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第7話 羊皮紙は羊の皮


ミッテさんと他の女中さんにも手伝ってもらって、下着の上下揃いを二組作った。

みんなお裁縫上手いね!


ミシンがないと縫い目がガタガタな私と違って、正確な縫い目でちゃっちゃか縫っていく。

二日で仕上がった。

まあ、下着だから。

ポケットもタックもなし。ゴム紐はないので、代わりに麻紐を作って、ウエスト周りに通す。


「これ、いいね!」

意外に喜んでもらえた。

そうでしょう~。

おしゃれな組み紐を使って、ズボンの上からぎゅっと締めるタイプが主流らしいけど、トイレの時に外すと置き場所に困ったりね。

それよりはジャージみたいに中に通して、内側で締めた方が邪魔にならない。


さて。

先送りにしていたけど、問題はここからだ。


エシル将軍は、ここ数日、国王軍の詰所に通っている。

ずっとほったらかしだから、せめて王都にいる間は仕事をしているんだろう。

自宅からは、たぶん歩いて一時間半ぐらい。


王都の城壁の東西南北に一つずつ城門がある。城門とは言いながら、それだけで砦の機能も果たしている、けっこうゴツい建物だ。

そこが軍の詰所も兼ねている。西側の城門がエシル将軍の管轄だ。

配下の騎士団が王都の警備をやったりもするし、罪人を指揮して、土木工事なんかもやったりする。

まあまあ忙しい。


標の君が出奔する際、西側の城門で旅券がなくて揉めていたら、たまたま気付いたエシル将軍が、標の君を通してやり、以降数か月、ずっとお供をしている。


実のところ、この人は標の君による王位簒奪を企んでいる節がある。

結局そこへ行きつくまでに、標の君は死んでしまうし、エシル将軍も位を降りてしまうので表沙汰にはならないが、標の君を励まし王宮内での味方を作るためと称して、国内に点在する将軍や元将軍、力のある友人を訪ね歩いているんだから、客観的に見て謀反の準備だよね、と思わざるを得ない。


これを止めさせないといけない。


大地の君は、標の君とエシル将軍が同時に王都からいなくなった時点で、二人が一緒にいることに気が付いているし、だったら謀反の可能性がある、という事にも思い至っている。

だから、二人で王宮に戻った時に、大地の君はあえて標の君一人を前線に向かわせるのだ。


だいぶ考えたけど、やっぱり標の君が一人で王宮に戻るのが、とりあえずの破綻を防ぐ方法なんじゃないかな。


そう思って、遠回しに標の君に探りを入れたけど、標の君はうんとは言わない。

兄君の事は好きだけど、王宮では彼しか味方がいないし、大地の君は王太子なのでずっと標の君のそばにいるわけにもいかない。


これまでもずいぶん我慢したのだ。

冷たいご飯を一人で食べて、しきたり一つ知らないと嘲笑われ、王宮から一歩も出してもらえない生活。


そうだった。

うーん、可哀そうすぎる。そりゃ逃げたくなるよ。

どうしよう。

何とかしてあげたい。


靴が出来るのは、明後日。

その翌日には、二人は南に向けて出発してしまう。

チャンスがあるのは、今日と明日。と、運が良ければ明後日。


そうだ。

王宮に行くのが無理なら、大地の君に、ここへ来てもらえば良いのでは。


名案?

かどうかは、やってみないと分からない。


自分で王宮に駆け込むのは、たぶん無理。場所を知らないし、案内してくれる人もいない。ここにいる女中さんにお願いしようとしたら、またミッテさんが騒ぐだろう。中に取り次いでくれるかも分からない。


手紙か。

標の君に書いてもらうってのはどう?

大事な弟から手紙が来たら、大地の君は必ず読むだろう。

ただし、敵の派閥に渡らないこと。途中で握りつぶされたら終わりだ。

時間的に間に合わない。


うー。

頭を絞る。

うーーーーーーーーーーん。


あ。

ひらめいた。

メルト大臣。

そうだそうだ。私って天才かも。


エシル将軍の幼馴染にして親友。

南の城塞を守るジヤン将軍の副将だったが、温厚な人柄と幅広い知識を買われて、軍務大臣に抜擢された。


荷が重い、とぶつくさ言いながらも、周りから非常に信頼されて、その地位にある。

よし。

この人なら何とかしてくれるに違いない。


後は、標の君に手紙を書かせるだけだ。

自分で書くことも一瞬考えたけど、私、なんか言葉は通じるけど、文字は読めなかった。


ラテン語っぽい何かなんだけど。読めません。

ここ、本の世界なんじゃないの。

会話が日本語で成り立つなら、文字も日本語に統一しておいてほしかった。


しかも紙がない。


「手紙書きたい。」

とミッテさんに相談したら、誰に書くのか、どのぐらいの大きさか、と聞かれまくり、困っていると、紙でないとダメか、羊皮紙はどうか、伝言ではダメか、布の切れっぱしとかではダメかと聞かれまくった。


「紙ないの?」

思わず聞くと、ミッテさんは肩をすくめた。

「必要なら買いに行かせますよ。」


つまり常備するようなものではないのだ。

なんとかお願いして買いに行ってもらうが、A3ぐらいの羊皮紙1枚の値段が、銀貨1枚分・二千円相当と聞いて倒れそうになる。

たっっかーい!

パピルスで作ったいわゆる「紙」はさらに高いらしい。


まあ、私の財布から出るんじゃないんだけど。

あと、手のひらサイズの大きさだと、そこまで高くはないらしい。

いわゆる切れっぱしで、形も不揃い。これなら銅貨十枚。

もはや安いんだかどうなんだか分からないけど。


ここに、標の君に手紙を書いてもらう。

最初は渋っていた標の君だが、心配しているだろうから、無事だという事だけ書きなさい、と言ったら、おとなしく書いた。

あと、標の君のサイン。


よし。

これをメルト大臣の家に届けてもらう。

幼馴染の家から届く手紙なら、気安く受け取ってくれるだろう。


うまくいきますように。

うまくいきますように。



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