表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界救済 シナリオを変えて推しの王子様を救え!からの溺愛&どんでん返し?  作者: たかなしコとり
番外編 急に性格変わった少女を巡る物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/73

番外編1


羊皮紙の切れっ端を前に、僕はうなる。

王宮に手紙を出すから、ここに自分は無事だと書け、とディラーラに言われた。


どういうつもりだ?


今から王宮に出しても、他の嘆願書に紛れて、こんな切れっ端なんかゴミ扱いだ。まともに父王陛下や、兄上の所に届くとも思えない。

運よく届いたとしても、もう再明後日にはここを発つ予定にしている。間に合うとも思えない。


こんなの出しても、無駄だ。

むしろ兄上の怒りに油を注ぐだけの気がする。


でも確かに、手詰まりは手詰まりだった。

最初は、一人で市井に紛れて適当に生きていくつもりだった。前に母と住んでいた街に戻れば、知り合いもいるし、仕事もある。

なのに、心配したエシル将軍がついてきてしまった。


もちろん、安心は安心だ。

僕を思ってのことだということも承知している。

だけど、このままではエシル将軍は、その将軍位を剥奪されてしまう。代々続く名門の将軍家なのに。

自分と別れて帰れと言っても帰らない。

自分が王宮に帰るのが一番早いかとも思うけど、それで兄の怒りが解けなかったら、帰るだけバカバカしい。


逡巡している間に、エシル将軍は着々と反逆の準備を進めている。

彼も彼なりにぶちぎれている。

母上ともう少しで婚約だったところを、父王陛下に横取りされたうえ、母は王宮を出されて一人で出産、幸せな生活どころか、エシル将軍が探しだすまで生活に困窮して、暖炉の薪さえ買えなかったと聞いた。


そんな仕打ちをしておいて、今度は息子にもか、それならこちらにも考えがある、という訳だ。


兄上にはおそらく、僕がエシル将軍と一緒にいることはバレているだろう。

なんとかごまかしておけ、とエシルは副将に言っていたが、当人は王都の西を守る重臣の一人だ。二か月も王宮に出仕しなければ、当然怪しまれるに違いない。


このまま反逆の神輿に乗るのか?


だけど、そんな覚悟で出奔したわけではなかった。

まして兄に恨みがある訳でもない。

まあ父王に対しては、ちょっと、いやかなり文句を言いたい気分ではあるけど、殺したいほど憎んでいるわけではない。


思い悩んでいる所に、この手紙だ。

どうする。


ディラーラの顔を見る。

この、きらっきらした目つき。絶対何か企んでいる。

エシル将軍の縁者だから、他国の間者とかの心配はないにしろ、伯父の留守中に何かしようとするところが怪しい。


王宮に居場所を知らせて、どうする。

再明後日にここを発つまでに報せが間に合わない場合は、ただのちょっとした「断り」ぐらいだ。

兄上なら、「それがどうした」の一言で終わる。むしろ

「そんなに近くまで来ていて、なぜ王宮にもどらんのか!」

と余計に怒らせる可能性がある。


では、間に合った場合は。


ディラーラの顔をもう一度見た。


美人だなぁ。

好みかと言われれば、そうでもないけど、兄上の好みのど真ん中だ。

気になるのは、異性への距離の近さ。

初めて会った時から、なにかにつけて触られる。

まあ男女の好きというより、弟の面倒を見ているお姉さんみたいな感じではある。

何人か兄弟がいるという話だから、僕のことも弟みたいに思えるんだろう。


彼女がいたら、もしかして兄上の怒りの矛先を変えられるかも。

でも、間に合うのかな。

何か手があるのかな。


とりあえず、手紙を書く。サインも入れる。

ディラーラがうきうきしながらそれを手に取り、振り振り乾かしながら、

「ありがとうございました!」

と部屋を出て行くのを見送る。


うーん。

エシル将軍に秘密だという事は、そちら経由では手紙は届かない。

じゃあ、どうする。


王宮に直接届けても、間に合うかどうかは運任せだ。

間に合わせられる勝算があるとしたら。

そうだ。おそらくメルト大臣。

そこしかない。


思いついて、なるほどなぁ、と感心した。

メルト大臣はエシル将軍の、学問所入学以来の親友だ。

卒業してからも家族ぐるみで親交がある。本人も将軍家の出だし、軍事に関して直接助言するほど、兄上にも相当近い。


そして家族ぐるみで親交があるという事は、例えば厩番なんかも、それなりにむこうの使用人と顔見知りだということだ。

頼めば、すぐに大臣にまで手紙が届く。大臣に届けば、兄に渡るのはすぐだろう。


窓から見ていると、使用人の一人が、門を出て行くのが見えた。

運が良ければ、王都を出立する前に、王宮に手紙が届く。

後は、どうする。


エシル将軍の位を取り上げないと約束してくれるなら、王宮に戻ってもいい。

「どうせババァと二人なんだから、将軍位なんかくれてやる。」

なんてエシルは憎まれ口を叩いていたが、それで困るのは一人や二人ではないはずだ。


でも兄がどうしてもエシル将軍を処罰したいと言い出したら。

あるいは、やはり手紙が間に合わなかったら。


その時は、父ともいうべきエシル将軍を連れて、兄の手の届かぬ所へ行こう。

二人なら何とかなる。この数か月、そうだったように。

反乱の神輿に乗る選択肢は、捨てる。

エシルはどうかしらないが、そこまでの怒りや恨みは自分にはない。


これは賭けだ。

どっちに転ぶにしろ、ここに長居は出来ない。

そうしたら、あの変人で美人な娘とももう会うことはないだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ