後日談
私の耳は、鍵が回るかすかな音を聞いた。
「まっ・・待って。」
「待たない。」
昼間から、陸とベッドの中でいちゃいちゃしている。
そう。
彼氏いない歴=年齢だった私に彼氏が出来ました。
なんか、いろいろ話しているうちに、昔から知っているような、「一緒にいるのが当たりまえ」みたいな感覚になって、
「もう付き合っちゃう?」
てな感じになりました。
すでに半同棲状態。
結婚の話も出てる。
サラリーマンじゃないから、伯父さんに、結婚の話をしに行くときに反対されるかも、と心配していたら、
「お金はまあまああるんだけどなぁ。」
と陸が話してくれたのは。
陸が沙織さんと住んでいたこのマンションが、陸の持ち物だということ。
他に含み益入れて、資産七億円。
嘘みたいな金持ち。
沙織さんは、陸の事が心配で一緒に住んでいただけなので、私が来るようになって、
「じゃあ、他に家借りるわ。」
と、彼氏の家に近い所を借りた。
で。
「だから、四時に来るからって言ったよね?」
と沙織さんに説教をくらってるところ。
「ドアの外で待たされる私の身にもなって?」
「ゴメンナサイ。」
私が聞いた鍵の音は、沙織さんが合鍵で入ろうとした音だった。
アレの時の声で察した沙織さんは、さすがにいたたまれず、外で待っていた。
「誰か来たんじゃない?」
と私が指摘したので、陸はスマホを見て、
「うわっ」
となった。
「姉さん来る日だった。」
「残った荷物取りに来ただけなのに!小一時間も待たされるってどーなの。」
沙織さんはまだブツブツ言っている。
急いでシャワーして、ドアを開けて、
「ごめん、お待たせ。」
と陸が謝ったけど、暑い中で待たされた沙織さんはまだ怒っていた。
「付き合いたてで、盛り上がってるところ悪いけど、節度は持ちなさい?」
「はぁい。」
二人で小さくなる。
もう本当に相性良くて。
私は、大学を卒業してアパレルメーカーに就職したけど、土日はずっといちゃいちゃしてるので、ほんと、節度って大事だなと思う。
今日だって、お昼を食べた後、
「なんか眠くなっちゃったなぁ。お昼寝する?」
からの三時間。いやもう、すっかりカロリー消費されました。
沙織さんは、こっちに残っていた古い資料を半分は紙袋に詰めて、入りきらない半分は「捨てといて」と紐でくくった。そして合鍵を弟に返した。
「うちの親に挨拶に行った?結婚するなら、早いうちにしなさいよ。」
「あ、うん。来週行くつもり。」
「式は?するの?」
「うーん。レストランウェディングとか考えてるんだけど。」
私は、身内は少ないけど、友達は何人か呼びたい。
陸は、身内は割と人数いるんだけど、友達はほぼ無し。
「結婚は勢いよ。ぐずぐずしてると、しそこねるから。」
六年付き合っている彼氏と、いまだ結婚まで行かない沙織さんは力説した。
説得力ある。
でもまあ、その辺は心配ない。
「白いドレスが着たいんです。それは絶対!」
「分かってるって。」
陸は苦笑。
前の時にドレスが緑だったのが、本当に残念だった。
今度は絶対、白いウェディングドレスが着たい。
「女の子の夢よね~。」
沙織さんは、うんうんとうなずいた。
「これからは、澪ちゃんが陸のそばにいてくれるから安心だわ。」
てへ。
なんか嬉しい。
この人が義理のお姉さんになるんだと思うと、それも嬉しい。
「じゃ、私は帰るから。」
沙織さんは、重くなったバッグをよいしょと担いで、手を振って、帰って行った。
「続きする?」
ベランダから、沙織さんが見えなくなるまで見送る。
「えー。晩御飯の支度とか、そろそろしておかないと。」
「いいじゃん。晩御飯より、澪が食べたい。」
「もー。さっきも散々食べたでしょ。」
「そうだっけ?忘れた。」
「忘れっぽ過ぎる。」
「だって八百年待ったんだもん。まだ全然足りない。」
「仕様のない王子様だなぁ。」
遠くでヒグラシの鳴く声がする。
私と陸は、続きをするために部屋の中へと入っていった。
<終>
これで本編は最後です。お読みいただきありがとうございました。
番外編で、標の君から見た話をちょっとだけ書こうと思います。
よろしければお付き合いくださいませ~。




