第62話 謎クイズ
そんなこんなの年末イベント。
寒風吹き荒ぶ中、行ってみました。
イベントスペースには本が積まれていて、買うと後ほどサイン会に参加出来る、というパターン。
でももう、三冊とも持ってるしなぁ。
どうしよう。
ハードカバーの、一冊まあまあの値段。
買うか悩む。
横にエッセイ集もあって、そちらはもうちょっとお財布に優しい。
うーん。
悩んでいると、横に変なクイズ用紙が置かれているのが見えた。
ああ。知ってる。
ファンの間ではちょっと有名な、謎クイズ。
全部で五問。毎回質問が変わる。
三問正解で、美麗イラストの特製しおりプレゼント。
四問正解で、ポストカードセット。
五問正解で、特製トートバッグ。
みんな、頑張るんだけど、五問正解する人がほぼいない。
三問目までは、本を読んでいれば、大抵分かる。鷲羽国の東にある国は?とか。標の君が、王都に来る前に住んでいた街は?とか。
四問目は、内容を細かく覚えていないと答えられない。
標の君と出会った時、リナは何歳?とか。
本編の中で、リナの年齢ははっきり書かれていない。ただし、十代で結婚するのが当たり前の世界で、「もうすぐ嫁き遅れって言われそう」というセリフが出てくる。
だからリナは十九歳。
五問目はもっとひどい。本編のどこにも無いことが、問題に出てくる。
例えば「標の君のお母さんの名前は何でしょう?」とか。
そんなん分かるか!と、ネットで突っ込まれていた。
「トートバッグをあげるの、嫌なんじゃない?」
とか言われている。
でもちゃんと、裏設定集があって、当てた人もいるらしい。
前回私は、ポストカードセットまではもらった。
今回の五問目は。
「大地の君と結婚したお妃さまの名前はなんでしょう?」
うわー。
これな。
もしかして私が王妃かも、とずいぶん悩んだ。ちゃんと書いておいてくれればいいのに、無駄に悩んだよ。
だけど多分、私じゃない。元のディラは超がつく引っ込み思案。だから、どっちにしろお妃になるのは、ネスリンの方。
私の前に、その問題用紙を手にしていた女の子たちが、文句を言っている。
「こんなの分かる訳ないじゃん。」
「だよねー。」
「テキトーに書いとく?」
書かれたのは、ヨーロッパにありがちな名前、マリア。もう一人はジェーンと書いた。
用紙をスタッフに渡すと、答えに〇がつけられて、賞品とともに返ってくる。
二人のうち、一人はしおり、一人はポストカードセットをもらっていた。
「ほらねー。やっぱりあそこは、セリムだったでしょ。」
四問目。標の君が療養に行った別荘がある町は、なんて名前?
本編の中で、一度しか出てこない。それもエレーン姫のセリフの中で出て来るので、正解するのは難しい。よほどコアなファンと見受けられる。
正確にはセリム大公領。
領都はそこから取って、セリムと呼ばれている。
あー。あの屋敷は今頃どうなっているだろう。
放っておくと、庭にうさぎが穴をあけて困るのに。
「次の方?」
呼ばれて我に返る。
はいはい。慌てて、問題用紙をスタッフに渡す。
〇。〇。順につけていく。五問目を見て、スタッフが目を丸くした。
大きな〇。
「はいどうぞ。」
と奥から特製トートバッグが出されてきて、手渡された。
やっぱり答えはネスリンだった。
おおおお、と、周りがどよめいた。
「えー、いいなー!」
「うそー。正解?」
「なんで?」
「答え聞きたーい!」
周りが騒ぎ出す。
スタッフの人が慌てて、私をスタッフのスペースに引っ張り込んだ。
「ほかの人に、答えを言ってはダメですよ。」
「はい。」
それはまあ、そうでしょうね。
「あと、夜空先生と、トークショーの後で、壇上に上がってちょっとお話してもらうので。」
「へ?」
そんなの聞いてない。
でもラッキーなのかな。いろいろ聞けるかも。
「それまでここに座って、待っててください。」
「はぁ。」
パイプ椅子に座らされて、目の前にペットのお茶が置かれた。
積まれた本が売れていくのを見守る。
あと、謎クイズの方も、一斉に人が集まった。
ま、ほとんどの人は、しおりプレゼントで終わりなんだけど。
中には
「しおり集めたら、ポストカードに交換してもらえるとかないんですか?」
みたいな人もいる。
無理です。
トートバッグを眺める。
鷲羽国物語の美麗イラストを、正面に印刷した、ファン垂涎の一品。
物もしっかりしていて、良い。
思いがけずラッキーだった。
にまにま眺めていると、トークショーが始まった。
ローカル番組で見たことのある女性タレントが、夜空ひかり先生を紹介して、ご本人登場。スタッフスペースにいつの間にかいたので、びっくりする。
まずは最新刊のエッセイ集について。
そもそもこの人、話がおもしろいんだよね。
引き込まれて聞いていると、急に私の隣に座った人がいる。
え、誰。
全然知らないお兄さん。
と思ったら。
「あの・・ちょっと話してもいいですか?」
え?




