第6話 着せ替え王子様は照れ笑い
靴のサイズを測り終えた標の君は、またしてもたそがれていた。
王宮から出奔したものの、まだどこに行くべきかも、何をするべきかも分からないでいるんだから、仕方ない。
暇そうではある。
なので、運んでもらったお下がりを端から試着してもらった。
あああ、いいなぁ。
最初に選んだあっさり系だけじゃなくて、おそらく晴れ着らしい豪華仕様の服も全部一通り着てもらう。
一人ファッションショー。
すごくいい。
金糸銀糸の縫い取りのある服とか。豪華な刺繍とか。宝石がちりばめられた上着とか。
素材がいいので、何着ても似合う。
「あのー。ディラ?貴族っぽい恰好をするとバレちゃうから。下町の子の服でいいよ。」
照れて、ほんのり頬の赤い標の君がちっちゃく抵抗する。
はいはい。
そんなことは分かってます。
でもやっぱり見たいじゃない?
キラキラの服を着た、標の君。
破壊力抜群!これぞ王子様。
きゅんとする。
自らを戒めないと、気持ちを持って行かれそうだ。
七着目ぐらいで、標の君が「疲れた・・」とか言い出したので、さすがにそのあたりで諦める。
「じゃ、とりあえずこれとこれですね!」
最初に用意した、あっさりチュニックと長ズボン。
ローマ帝国の影響を受けた、ぞろぞろっと長いチュニックは、確かダルマティカとか言ったかな。学問所の制服にもなっている。
ただし、そのままでは馬に乗りにくいので、騎乗する時はたくしあげちゃったりする。
うっかりすると、お股が丸見えになったりするので、ヤバい。
標の君は長ズボンを履くので、そんなはしたない事には絶対ならないけどね。てか絶対させない。
「殿下、これからどうなさるんです?」
脱ぎ散らかした、豪華な服を畳みながら、一応聞いてみる。
「どうしようね。」
標の君も、庶民暮らしが長いので、むしろ私よりもてきぱきと服を畳んでいく。
私は服を積み上げながら、標の君の、美しい顔を見やった。
「このままでは、兄君を怒らせたままですわ。お城に戻って、謝った方がよいのではないかしら?」
どこまで話が補正できるか分からない。
こんな風に言ったところで、補正が効かなければ、標の君が死ぬ方向へ話は流れていくだろうし。
「今帰って、許してもらえるかも分からないし。エシル将軍が、僕のためにいろいろ考えてくれているみたいだし。もう少し、エシル将軍の策に乗ってみようと思うんだけど。」
そうそう。
標の君の悪いところだ。
すっごく優しくて、超物知りなのに、めちゃくちゃ思い切りが悪い。
今回の出奔だって、相当追い詰められてのことだけど、こうなる前に他にやりようがあったんじゃないかと思う。
「許してもらえます。てか許してもらいましょう。大地の君は、あなたのことが大好きなんですもの。きっと大丈夫。」
そうそう。
大地の君は、綺麗な弟君が大好きで、実は女性にあんまり興味がない。
そのまま行けば、ラブラブBL展開になってもおかしくないのに、そうはならない。
王宮に戻って来た標の君に、エシル将軍がべったりひっついているのを見て再度ブチ切れた大地の君は、砂嶺国との戦いに援軍として標の君を向かわせる。
ヤキモチ入ってると思う。
しかもそれが結構致命的な結果になる。
だからね、ちょっと勇気を出して一人で王宮へ帰らなくちゃだめなんだよ。
「あ、そうそう。標の君の夜着を新調しますから、サイズを測らせてくださいね!」
夜着、というか兼下着シャツだ。
本当は綿素材がいいんだろうけど、あいにく中世ヨーロッパの基本は麻かウールだ。
金持ちは、シルク。
ま、それは置いといて。
「え、そんなのいいのに。」
という標の君の言葉を無視して、リボンをメジャー代わりに計測。
胸に密着。腕をなでなで。
きゃー。嬉しい~。
残念ながら、私の理想よりはちょっと痩せている。
あんまり筋肉がついていなくて、触ると結構骨ばっている。
お肉が付きにくい体質なのかなぁ。
「ちょっ、ちょっとディラ。くすぐったい。」
あばらをさわさわしていたら、真っ赤っかになった標の君に手を握られた。
「まだ測るところある?」
あ、ごめんなさい。調子に乗りました。