第5話 買い物ひとつが面倒くさい
中世ヨーロッパの生活の大変さは、もう本当、いちいち書きたくない。
トイレも大変だし!
顔を洗うのも大変だし!
お股はすーすーするし!
買い物もポチれないし!
かと言って、一人でお出かけ出来ないし!
買い物に行く、と言ったら、あのハリガネみたいなおばさん、女中頭のミッテさんが慌てだした。
「メイドもいないのに、お出かけさせられません!」
え、だって。ミッテさんがいたらいいじゃん。ミッテさんの都合が悪いなら、誰かほかの人でもいいし。
と言ったら、こんこんと説教された。
「女中をメイドのように扱ってはいけません!」
え?
一緒だと思ってた。違うの?
メイドは侍女。つまり奥方やお嬢様のお付きの人。
身の回りの世話をしたり、話し相手になったり、お出かけの際は一緒の馬車に乗ったりなんかする。
本来なら女中頭と奥方の間にいて、奥方の要望を下の者に伝える立ち位置にある。
女中は一緒に出掛けないし、出かける時でも馬車の御者台に乗る。
完全に格下なのだ。
「商家ではどうなさるか存じませんが、こちらではお嬢さんを女中と二人連れでお出かけさせたりはいたしません。」
うわー。めんどくさー。
「え、でもー。サディナお母様は、何事もミッテさんに相談しなさいって。」
一応抵抗を試みる。
「しかたございません。当家では今はメイドは、奥様付きの一人しかおりませんし。侍従も今はおりません。」
ミッテさんも困っているようだった。
「若旦那様はいつもふらふら出歩いていらっしゃって、おうちの事をあまり気にかけては下さいませんし。やっと帰っていらっしゃるとご連絡があったので、侍従をどうするか奥様にご相談したら、お嬢さんがいらっしゃったのです。」
若旦那様。エシル将軍のことだよね。
まあ、なるほどだよね。
いろんなことを放り出して、標の君にくっついているんだから、そりゃ迷惑被っている人も多々いるに違いない。
原作にはない、裏の一面だ。
「ていうことは、私はエシル将軍付きの侍従の代わりって事だよね。だったら、お出かけしてもいいんじゃない?」
「いえいえ。そうはいってもサディナお嬢様のお子様でいらっしゃいますから。それに、侍従の代わりなら、なおの事、若旦那様のそばを離れられては困ります。」
め・ん・ど・く・さ。
「標の君のお召し物を整えて差し上げたいのよ。どうしたらいいか、教えて?」
なるべく可愛くすがってみると、ミッテさんは、眉毛を上げ下げした後、ふんと鼻を鳴らした。
「それなら、若旦那様が子供の頃に着ていらした服が、いくらでもございます。若旦那様に聞いてごらんになられてはいかがですか。」
案内されたタンス部屋には、上から下までぎっちり服が詰まっていた。
「若様が十五・六の頃に着ていらした服は、この辺りですよ。」
言われて出してみたが、どう見てもデカい。
昔からデカかったんだなぁ。
もう少し小さい頃のを、と見せてもらって、十歳ころに着ていたという、なるべくあっさりしたものを選ぶ。
「パジャマはないのかしら?」
と聞いたら、
「夜着ですか。では、これで作って差し上げてください。」
と巻いた状態の布地を出された。生成りの麻生地。
何でもあるね!
最初からそう言えばよかった。




