第47話 王妃と大公妃、再び
大地の君はぽかんと口を開けて、ちょっと頬の赤い標の君を見て、それから私を見て、私のお腹を見た。
残念ながら、今流行りのダラッとしたワンピースでは、膨らんでるかどうかさえ分からないけど。
そして
「そうか。」
と一言。
ややあって、また
「そうか。」
と言った後、応接室のソファーでだらりと力を抜いた。
「そうか。なるほど。あー、そうか、そうか。めでたいな。」
「何か他の事を考えていました?」
私が突っ込むと、大地の君は、両手で額を抑えるようにした。
「いや。標が、じゃなくてセリム大公が、簒奪を企んでいると俺に注進するものがあってな。そんなことあるはずがないとは思っていたが、見ると、ここの護衛が増えているし、大公の様子もおかしいし、エシル将軍は俺を避ける素振りだし。お前はここに籠り切りで姿を見せない。何かあったのかと心配していた。」
何らかのたくらみが進行中なのかと疑っていたのだろう。
「最近、王太子派の連中に狙われることが多くて、ディラを外に出さないようにしていました。妊娠したことも秘密に。」
「そうか。確かにな。色々すまぬ事だ。身を守るのが第一だからな。それでこの事を父上に話しても良いだろうか?」
えー。
バレたら、王后陛下がブチ切れるんじゃない?
と思ったら、標の君も同じ考えだったらしい。
「国王陛下に口止めをお願いできるようでしたら。」
大地の君は、うーんと唸る。
「ずっとは無理だ。と言って、子供が生まれるまで父上に内緒にしていたら、それはそれでお怒りになるだろうし。」
「十日後には領地に戻ります。その後なら、誰にお話しになっても大丈夫です。」
「了解した。」
大地の君は、すっきりしたようだった。
よほど思い悩んでいたのだろう。いつもは、最低限の用事が済んだ後はさっさと帰ってしまう大地の君が、ソファーの上で、きゅーっと伸びをした後、動こうとしない。
「子供か。よいな。俺も結婚したくなってきた。」
「王妃様が、良縁を沢山探してきていると伺っています。」
これは標の君。
「あー、母上はな。実家のレベント侯家の縁者ばかり連れて来るからな。面白くないのだ。もっとこう、男装して厩に飛び込んでいくような女がいいんだが。」
「またそんなことを。」
はい。そんなこともありました。
「この国の王妃になる人が、厩に男装して飛び込んじゃだめでしょ。」
「その辺の兼ね合いがな。」
表に立って、王妃として責務を果たし、国民の敬愛の対象になる人を、じゃあ妻として自分が愛せる対象として見られるかは、また別なのかもしれない。
「でも、お年頃の貴族の令嬢とは、もう大体お会いになったんですよね?」
「あらかたな。」
「誰もお気に召さなかったんですか?」
「うーん。そもそもシーリーンに決める時でも、相当時間かかったからな。」
これは大変だ。
貴族以外にも範囲を広げないと、大地の君の希望するような女性には出会えないだろう。
あ、だから「縁者」を王妃が探して来るのか。
シンデレラの舞踏会でも開くか。
「未婚で婚約者もいない女性を集めて、パーティ開くのはどうですか?」
言ってみたが、返事はない。
見たら、寝ていた。びっくり。
起こそうとしたら、標の君に止められた。
「もう少し。でね、思うんだけど、多分今、未婚で婚約者のいない女性は、もう大分年下になっちゃうんじゃないかな。」
「そうかも。」
それか、ちょっと問題がある女性か。リナとか推したいけど、過去がバレた時に辛いだろう。エレーン姫?うう。問題あるなぁ。うっかりすると、つぶれかけの砂嶺国の復興を手伝わされるかもしれない。
なるほど。王妃様がカリカリするわけだ。
「パーティは無理そうですね。」
「ネスリンとか。」
標の君の、いたずらっ子みたいな瞳がきらきらしている。
わお。
「う、うちの家から王妃と大公妃がでたら、あっという間につぶれてしまいそうです。」
「例えばだよ。それに、君のおばあ様のアイカ姫は、テュルン将軍の家系でしょ。そっちの養女になれば、角が立たない。」
おお。そんな裏技が。
ていうか、エシル将軍とテュルン将軍は従兄弟だったんだ。
「よいな。」
急に声がしたので、びっくりして振り向くと、一瞬の寝落ちから復活した大地の君が笑っていた。
「よい案だ。お前の妹か。」
「はい。ええと、でもまだ十二歳なんですけど・・」
「他にいないのか。」
「上の妹は、もう婚約者がいますので。」
大地の君は、少し考える風だった。
「その娘に会えるか?」
「え。そこにいます。私の侍女をしてもらっているので。」
急いで、廊下にいるはずのネスリンを呼ぶ。
そんなことってある?
え?本当に、姉妹で王妃と大公妃ってありなの?どうなの?




