第25話 キュン死します。
しばらくぶりに見た標の君はやっぱり美少年だった。
ちょっと痩せた分、儚さが増している。
もう破壊力抜群。
女官たちが、どうしてこの人に意地悪できたか分からないぐらい。
私も、大地の君の腹筋にちょっと心動いちゃったけど、でも申し訳ないけど、標の君にはかなわない。
なんだったら、この先、標の君にちょっと腹筋を鍛えてもらえばいいし。
お世話ができて毎日が楽しい。
だんだん寒さも厳しくなってきたので、私が作った室内履きは結構喜んでもらえた。
「ありがとう。」
とにっこり微笑んだ顔に、撃沈。こんなのいくらでも作りますわ。
「本当言うとね、ちょっと心配だったんだ。」
帰還から数日後の、ある夕食の時に、標の君はそう言った。
「セレイからの知らせで、君が毎朝、兄上に会っているって聞いたから。」
あ。
もー。どこで見てる。セレイの密偵。
「もしかして、その、やっぱり・・ほら、兄上、か、格好いいから。君も、その・・兄上の侍女になりたいのかな、とか。」
言いにくそうに、ちょっと目をそらしながら言う標の君。
ごめん。鼻血出そう。
もしかして、もしかしなくても、ヤキモチですか。
あ、どうしよう。
好きかも。ダメかも。
「あの、お、王太子殿下は、水、水浴びに、井戸に、えーと、私が朝食をですね、外で食べてただけで、か、階段で、挨拶を」
支離滅裂になった。
「とにかく!王太子殿下とは何でもありません!目の前にいらしたから、あいさつしただけです。」
スプーンを置いて、おろおろと手のひらを上げ下げしていると、標の君は、やおら立ち上がって、四人掛けダイニングテーブルの向こうから手を伸ばして、私の手をぎゅっと掴んだ。
「君を誰にも渡したくない。兄上に会っていると聞いて、とても嫌だった。」
キュン死、確定。
「な、泣いてるの?」
標の君は手を放して、何か顔を拭くものはないかと探す。
給仕に立っていた女官が、うやうやしく白いナプキンを差し出した。
それを受け取った標の君は、テーブルを回って私の頬を拭った。
「なんで泣くの。」
「私にも分かりません。」
緩いな、涙腺。
「君を幸せにできるか分からないけど、頑張るから。一緒にいてくれる?」
あーもー。
これって、プロポーズなのかな。
なんかもう、嬉しいんだかどうなんだか訳わかんない。
だけど、こう言うしかない。
「おそばにいます。私にできる事は、全部します。」
思えば小学校でいじめられて以来、現実の男は「戦う対象」だった。
かといって、アイドルにもはまらず。
二次元のオタ活も、むしろかわいいコスプレとかグッズ作り方面で、特定のキャラクターにどっぷり、ていう感じでもなかった。
標の君も、推しは推しだったけど、でも小説の登場人物で、漫画とかアニメのキャラみたいな扱いじゃなかった。挿絵は超美麗だったけどね。
それが今。
目の前にちゃんと生活感を持って存在している。
そして、私の手を握って
「誰にも渡したくない」
だって。
倒れそう。
いいのかな。
こんなよく分からない世界の、だけど超美少年の王子様と、私幸せになっちゃってもいいのかな。




