表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/62

第17話 打ち出の小槌かも


この機会を逃さぬべし。

「あと、ペンとインク。」

紙がないので、ペンとインクもない。

「男物の服と。」

エシル将軍は再度のけぞった。

「なんだ、剣の練習でも始めるのか。」

「ちょっと、運動がてら。あと、お酒。すごーく強いの。」

「はぁ?」

お前が飲むのか?という表情に、あいまいにへらへら笑ってやり過ごす。


この先どうなるか分からないけど、いろいろ用心しておくのに越したことはない。

破傷風って、名前を聞いたことしかないけど、なんかバイキンが傷口に入って、ひどいことになるんだろうと察しがつく。戦場に出なくったって、いつどこで破傷風になるか分からない。


対処法は、傷口を殺菌すること。

強めのアルコールで流せば、かなり効果があると思う。常備しておいて損はない。


「あとはねー。髪留め。括れるやつで飾りの少ないの。それとー」

「分かった!分かったから。そんなに一度に言われても、憶えられん。また来るから、その時にな。」

エシル将軍は、降参、というふうに手を挙げた。

標の君は、楽しそうに笑っている。


「エシル。貴公の姪は、おもしろいな。」

「それは重畳。俺も、我が姪ながらこんな娘とは知りませんでしたがね。」

はいはい。

私もディラがどんな娘か知らなかったよ。名前も出てこないモブだったからね。


とにかくこの先だ。

原作では、砂嶺国との戦争で負傷した標の君は、王家の別荘でリナと出会い、恋に落ちる。

しかしリナには婚約者がいるし、自分は砂嶺国の王女との結婚を勧められて、泣く泣くリナを諦めて王女と結婚する。


一方で大地の君は、自分の短慮で標の君を戦争に送ってしまったことを激しく後悔し、標の君を避けるようになってしまう。

標の君を南に送った時点で、エシル将軍は国王軍をクビになっているし、何人かの将軍たちは後日謀反の疑いで左遷されるし、戦いには勝つものの、鷲羽国はゆっくり衰退していく。


そう言えば。

エシル将軍がまだ将軍でいられるのは、私のおかげだぞ。

感謝するがよい。


今のところ、まだ砂嶺国との戦争は起こっていない。

どのタイミングだったっけな。


「セレイからの伝言だ。予想通り、河蘆国と砂嶺国の間で蝗害が発生した。」

エシル将軍の言葉に、標の君の瞳がきらっとした。

「そろそろだと思ったんだ。」

「陛下に進言するか?」

「いや。どのみち僕の言葉は聞いて下さらない。テュルン将軍に伝言を。砂嶺国は数日のうちに兵をこちらに向ける。おそらく兵力は二万前後。」

「そんなに来るか。」

「死ぬか、小麦を奪い取るか、しかないんだからな。」

「他には。」

「薪で櫓を組む。国境に沿って、二百は作る。それから近隣の村に伝達を。倉庫の隙間は必ず埋めておくように。バッタに食われる。」


次々に指示をだす標の君。

かっっこいい~。惚れ惚れする。

そうなんだよ。普段、物静かでおっとりと構えている標の君なのに、いざ事が起こると、それまで誰にも見えていなかった戦略を次々に示して、自軍を有利に導いていく。

カッコイイ。


なのに、その功績は認められない。

エシル将軍か、テュルン将軍の入れ知恵だろうという訳だ。

腹立つわー。


でもまあ、こうして標の君の生き生きと指示を出す姿を間近で見られて、すごく嬉しい。

この普段とのギャップが萌える。たまらん。


エシル将軍は、いくつかの指示を聞いて、帰って行った。

うん。あの調子じゃ、私が頼んだ物をいくつ覚えているか、心配だな。

さすがに打ち出の小槌とまではいかなかったようだ。


「戦争になるんですか?」

何も知らないふりで聞いてみる。

標の君は、にこにこしながら私の手を取る。

「大丈夫。そうならないように、手を考えている。それに王都まで敵が来ることはないからね。心配しなくていいよ。」

いや、心配しているのはそこじゃなくて。


もしかして万が一、標の君が出征となったらどうしよう。

せっかく我慢して王宮に戻ったのに、水の泡だ。

もちろん、大地の君のブチ切れは回避した。だけど標の君が怪我をしたら、元の筋書きに戻ってしまう。


まあ、今考えても仕方がない。

今朝、標の君の部屋で発見したチェスを、もう一度並べ直す。

「続き、しましょうか。」


ちなみに、私、将棋はまあまあ得意です。

じいちゃんに鍛えられたので、高校の将棋部の部員で私に勝った人はいない。

私、家庭科部だったのに。

時々、将棋部の顧問の先生と指して、勝ったらジュースをごちそうしてもらっていた。


だけど、標の君も結構強い。

今まで相手がいなかったので、ほとんど指したことがない、って言ってた割に、私とほぼ互角。

ただし、一手にすごく時間がかかる。

めちゃめちゃ考えてるんだろうと思う。


私はと言えば、将棋とチェスのルールの違いに足をすくわれっぱなしで、うぎゃっと何度もなる。

私が発狂しているのを見て、標の君はけらけら笑っている。


あなたが楽しいなら、いいんですけどね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ