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10月3日(水)(8日目)

 世間一般に兄妹は仲が悪い。我らが兄妹も例に漏れず仲が悪い。もっともこちらが一方的に嫌っているだけであるが。これは血が繋がらないゆえの例外だろう。完全に俺の一人相撲だ。しかも一度たりとも白星をあげたことがない負け戦。もっとも義妹から悪意をもって直接的な実害を受けてない訳ではない。今は負けを認めて開き直って生きている分まともと言えよう。縁を切らずに距離を置いているぶん理性的だと褒められて然るべきでさえある。


 思索とは離れるが、今日の日記はこのモヤモヤを吐き出すために綴ろう。


 俺と義妹は連れ子同士であった。義妹が物心がつくかどうか、俺は就学直前あたりに邂逅した。配偶者を亡くした者同士が出会い、子供の為という打算もありつつ婚約したという。それでも嫌い合っている者同士が結ばれた訳でもなく、互いに利点があるからこそコミュニケーションを欠かさなかった。今ではおしどり夫婦と近所では評判だ。上辺だけは。実際は片方だけが入れ込んでいる。美人に目がない我が実の父のことである。くたばれ。


 そんなおしどり夫婦において争点になったのは義妹の存在であった。


 義妹はギフテッド……俗に言えば天才というやつであった。両親が結ばれた当初は利口な子ぐらいに思われていたが、それは加速度的に頭角を現していった。小学生の頃、急な家庭訪問があった。妹の担任で、俺の担任だったこともある柔和な雰囲気のおばさんが見たこともない真剣さを携えてギフテッド教育を勧めていた。当時はまだ素直に「妹って頭いいんだな」ぐらいにしか捉えてなかった俺であったが、縁側で茶でも啜っているのが似合う担任の変わり具合に得も言えぬ気持ち悪さを感じたのを覚えている。


 本来ならばギフテッド教育の環境が整っている都会の私立にでも転校すべきであったが、地方に仕事を持つ両親が娘一人を送り出す訳にもいかず通信教材での学習となった。


 俺を取り巻く環境が変わったのはこの頃だった。人の口に戸は立てられぬというのが正しいと肌で実感したのもこの頃であった。皆が聞き耳を立てていたと思えるぐらいに、妹が天才だという噂はすぐに広がった。頭も良ければ容姿も優れた妹と平々凡々で容姿も十人並みな俺。比較にすらならない。そして子供というのは残酷な生き物である。「妹は天才なのにお前は大したことないな!」などと嘲笑を口にしてくる。愚鈍で間抜けで阿呆な癖に負けず嫌いだけは百人力な俺は努力を始めた。朝から晩まで遊ばず勉強した。中学から部活を始めてからは部活にも精を出した。血反吐を吐くぐらいの辛さなど慣れっこになった。それは高校に入っても継続し、ある事件が起きるまで続けられた。


 一つ言えるのは俺の血が滲む努力の全てを、妹は鼻歌混じりに超えていった。運動ですら全国上位ときたもんだ。もはや笑える。


 妹は天才という名の化け物である。


 化け物と張り合おうとした俺が間違っていた。風車を怪物と間違えたドン・キホーテならば笑い話にもなったのだが、その逆だったから笑い話にもならない。


 自分から手放した普通の日々を取り戻すため地元から遠く逃げて得た大学生活。


 過去が俺を追ってくるな。

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