10月19日(金)
一日経ってもあのピアス女の存在に悶々としていた。頭の中で警笛が鳴り止まない。どんな手を使ったとしても奴を兄貴から離すべす、と天使なあたしが劇画チックで尋常ならざる顔で迫ってくる。悪魔なあたしはまずは文句をつける相手がいるだろうと諭してくる。
天使の方が過激派なのは如何だろう。まあ、あたしの中では兄貴が正義なのだから仕方あるまい。言うなればワールドカップで相手チームの国旗を踏んづけたり、焼いたりしたようなものだから。
とはいえあのピアス女の連絡先なんて知らない。専門学校生ゆえ調べる手段は無数に思い付きはするけれど、どれも費用対効果が悪そうだった。だから手始めに連絡先を知っていて文句のつけやすそうなところから始めることにした。
あのひょっとこだ。
チョコミントさんによるとあの人もあたしが兄貴に向ける想いに気付いているらしい。そんなにあからさまだったかと思うと顔が熱くなる。だけどバレているのならば話は早い。開き直ろう。
善は急げ。ひょっとこに電話した。
数コールの後、待ってましたかと言わんばかりに道化ぶった鷹揚とした声で聞こえてきた。いつ電話が掛かってくるのかまだかまだかと待ち侘びていたようであった。
そんなにクレーム対応が好きなのかとドン引きしたことを伝えたら「心外ですなぁ」と怒りが込められていない怒りを表明された。
それから言い慣れた雰囲気で流暢にひょっとこがあの二人を引き合わせた理由を語られる。
あのピアス女には想い人がいたという。それを聞いた瞬間は兄貴のことかとドギマギしたが、兄貴ではないらしく一安心。それは大学テニス部の主将であるらしい。ひょっとこ主催の飲み会でその人に一目惚れしたらしい。ただ芽はないから適当な相手を見繕おうとして兄貴と引き合わせたのが今回の経緯。ちなみにその主将さんの好みの女性は芯のある美人らしく、ガワだけ取り繕うようなピアス女みたいな人は好みの範疇から大きく外れているとはひょっとこ談。あの自己主張激しいピアスもその主将さん好みに合わせようとしたのに逆効果だと思うと少し可哀相だった。
ここまで聞いたうえであたしは問うた。
「あたしがいたのに兄貴に引き合わせる必要があった?」
いけしゃあしゃあと答える。
「だってもどかしかったんだもの」
さっさと成就するなり玉砕するなりしろとのことだ。兄貴の親友としてそこは譲れないと言ってのけた。一応、本気を出すなら手を貸すこともやぶさかではないと言質は取っておいた。そういうひょっとこがどこまで本気かわからないけれど。
兄貴の親友を自称するひょっとこは最後こう言って電話を切った。
「僕これから君のお兄さんと飲み会なんだ。羨ましいでしょ。ねぇねぇ」
言うだけ言って切られた。
人を苛立たせる天才ではなかろうか。獅子舞の如くたてがみを揺らして煽られた気分だった。
友だちは選ぼうと兄貴に言いたい。だけどあれぐらい世の中舐め腐ってないと兄貴の親友なんて恐れ多くて名乗れないのやもしれない。
だけど、やはり言いたい。
友達は選ぼう。




