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野郎元気で馬鹿が良い~兄と妹のすれ違い日記~  作者: 宮比岩斗
兄の日記

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10月27日(土)(32日目)

 見るからに痩せた。ゲッソリしているともいえよう。


 さて、今日から学祭が始まった。出店があったり、芸人を呼んだりして盛り上がっていた。普段はボンクラか望まれていない方向への情熱ばかり溢れる馬鹿野郎どもでもそれなりの盛り上がりを作り上げていた。


 明日はミスコンの準備で忙しくなるからとひょっとこに誘われ、学際見て回った。普段は死んだ目ばかりの学生ばかりな本学も学祭ともなればやる気に満ち溢れ、それが行き過ぎて学内で酒盛りを始めて実行委員会にドナドナされる姿が確認できた。


 普段とは違う大学の装いは新鮮であったが、すぐさま立ち去りたかった。出店から立ち昇る香ばしい匂いに胃袋がやられてしまったからだ。これ以上ここにいては食べてしまう。脳内警報が鳴り響いていた。


 ひょっとこが「それを待っていました」とばかりに何処かへ連絡を取る。すると何処から湧いて出てきたのか手に焼きそばやらじゃがバタやらを携えた学友どもが近づいてくる。手に持ったそれを眼前に近づけて苦しむ俺の姿を楽しんでいた。


 走って帰ろうと思った。思い留まったのは「先輩方、それは流石に可哀想というものですよ」という麗しの君の声が聞こえたからだ。


 地獄に仏とはこのことだろう。空腹を忘れてヘラヘラしてしまう。きっとこの時の俺は締まりのない顔をしていたに違いない。今にして思えばこの時の俺は食欲よりも性欲が勝っていたということだろう。危ない人間に違いない。そう思われることだろう。だが待って欲しい。死が近くなった生き物は種の保存を何よりも優先させるという。だからこれは正常なことなのだ。だから仕方ない。もっとも秩序ある人間社会からすればやはり危ない人間には違いないのだが。そもそも空腹ならば性欲よりもさっさと食欲を満たせ。もはや戦後ではないのだからアッブデートしろ。


 この締まりの無い顔は長くは続かなかった。


 麗しの君の背後から俺の様子を伺うように義妹が顔を覗かせた。


 いつもは俺の機嫌など気に掛けたことなどなかったのに、警察のご厄介になった親子喧嘩がつい先日にあったためか文字通り恐る恐るといった様子であった。


 いつもは自分をボスだと勘違いしている家猫の如き傍若無人ぶりだというのに今は借りてきた猫のように遠目でこちらを伺うばかり。義妹の皮を被ったナニカだと言われた方が納得がいく。


 弱々しい可愛げを周囲に香らすソイツに問わねばならなかった。可愛げにやられた馬鹿野郎どもに睨まれようとも問わねばならなかった。


「どうしてここにいる?」と。


 予想通り、馬鹿野郎どもは騒いだ。「こんな可愛い子ちゃんを虐めるなんてどういうつもりだ!」とか「お兄さん酷い!」などと囃し立てられた。


 それを言った一人一人にアイアンクローかましつつ、義妹が言葉を紡ぐのを待った。暫くして見かねた麗しの君が間に入る。


「そう目くじらを立てないでくれないかい。私が呼んだんだ」


 どうやら麗しの君は義妹から事情を聞いて「思い出づくりに」と招待したらしい。今日明日と学祭に参加するとのこと。寝泊まりする場所も麗しの君のアパートを貸してくれるそうだ。


 それは流石に迷惑なのではと思って仕方なく俺の部屋に泊まるように提案したが、義妹から「それだけは駄目なの」と断られた。


 あのクソ親父に友達の家に泊まると言って出てきているため、俺の部屋に居座っていることがバレたら大変なことになるという。祖母の家も何かの拍子でいることがバレたら大学に顔を出していることも芋づる式で露わになるため、麗しの君の家が安全だそうだ。


 理屈はわかったが様々な理屈から難色を示していると麗しの君が「頼むよ、先輩」などと頼まれしまった。哀しき男の性ゆえ頼まれてしまったら「はい、喜んで」などと大衆居酒屋的に二つ返事するしかないのである。


 こういうところはクソ親父からの遺伝。


 感じたくない血の繋がりである。


 ほんと、似たくないところばかり似てしまう。


 その後、野郎どもに麗しの君と義妹を加えたグループで学祭を見て回った。


 義妹は芸人のステージが大変お気に召したらしく腹を抱えてゲラゲラ笑っていた。これで今度は大学受験辞めて吉本新喜劇に入るとか言い出さなければいいなとか思ったりした。


 その間、麗しの君はたこ焼きや焼きそば、リンゴ飴など大体何かを頬張っていた。案外沢山食べるタイプらしい。食べても太らないタイプなんだそうだ。


 無論、俺は何も食べられないまま過ごした。結局一番腹に毒だったのは麗しの君だった気がする。だけど目の保養だったからプラマイゼロということにしておきたい。


 帰宅後、どっと疲れが押し寄せた。まともにカロリーにならないモヤシ炒めを醤油をかけて食べた。気を紛らわすためにこうして日記をしたためている。


 だが限界ゆえもう寝る。腹の具合的にも、押し寄せた義妹関連の精神的疲れを表した言葉だけ最後に残しておこうっぱなし


 ゲッソリ。

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