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野郎元気で馬鹿が良い~兄と妹のすれ違い日記~  作者: 宮比岩斗
兄の日記

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10月5日(金)(10日目)

 義妹の様子がおかしい。昨日、麗しの君と女子会へ行ってから何やらおかしい。具体的にはちょこちょこ俺のことをチラ見してくるのだ。きっと大学生活における武勇伝という名のやらかしを聞いて馬鹿にしているかもしれない。


 特に実家にひた隠しにしていたヤリサー潜入事件を知られたと思うと気が重くなる。少しばかりの吐き気すら催している。気を使える女性である麗しの君は言わないでいてくれると信じている。ただ麗しの君が言わなくても、学友という名の馬鹿野郎どもが知り合ってしまったからにはいつか耳に入るだろう。ひょっとこはあの事件の関係者でもあるから特に注意が必要だ。


 あの事件では俺にお咎めはなかったものの、実家に知られたくないばかりに身元引受人に祖母を指定したことを思い出す。連絡を受けた祖母は後日「警察から連絡来た時は腰が抜けたよ!」と普段は優しいのに珍しく俺の背中をパシパシ叩いたのはよく覚えている。未だ実家に知られていないあたり、祖母は信頼できる人であった。どうしてそんな人から父のような大ウツケが生まれたのか。


 さてそんな我が一族の中で唯一信頼を寄せられる祖母であるが、明日ようやく町内会の旅行から帰ってくる。つまりは妹が我が家から出て行く日。ゆえに我が家には平和が訪れる。


 義妹が来襲してからの日記を読み返してみたが、やはり心がささくれ立っている。これはよくない兆候である。だからこそ昨日は野郎どもの悪ふざけ如きに沸騰してしまったともいえる。


 男たるもの紳士でなければならない。何事にも動じずスマートに対応できる男になろう。


 まずは明日。妹を家から追い出してから頑張ろう。


 馬鹿な男は今日から、今から頑張ろうなどと生き急ぐ。泥臭く諦め悪くあがこうとする。


 紳士な男は違う。スケジュールを立て、英気を養い、不確定要素を取り除く。スマートに心穏やかに物事を済ます。そこで得た余裕があるからこそ万物に優しくなれるのだ。


 明日、義妹を追い出したあと何をやるかは既に決めている。


 いきり立つ我が愚息を慰めるのだ。


 ここ数日、女体を見て愚息を発散させていないせいで運動させろと元気で困る。義妹が風呂上りに薄着でうろついているのすら、愚息が喜びそうになっている。まったくもって言うことを聞かない愚息である。


 だからこそ明日、義妹を追い出したあと、すみやかにズボンを脱ぎ捨て、パンツを放り、愚息を慰めなければならない。参考資料は既に準備済みである。他の用事は入れず、課題も終わらせている。完璧なスケジュール。あとは無駄な労力を使わないだけ。


 明日の日記はきっと世界一紳士な男が書いているだろう


 紳士であり、賢者と成った俺が英知をしたためているに違いない。


 そう、ヤリサー潜入事件を実家に知られないための方法を思いついているに違いないのだ。

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