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9月26日(水)(1日目)

 日記とは己が魂を映す鏡である。


 ユーチューバーなる出所不明の者が出所不明なそれを名言っぽく語っていた。名は覚えておらぬがその言葉だけは覚えていた。その日の出来事を日記にしたため、見直し、明日の己の糧にする。いわゆるPDCAサイクルを回しているのと同じ効果が認められる。そういうものらしい。真偽は不明だ。


 ゆえに己を鍛えることを三度の飯より好み、将来の博士大臣はたまた人類史に名を残す何かになることが約束されているこの俺が日記をつけたらどうなることか。ああ、考えただけで身震いしてしまう。きっと世界大統領にだってなれるだろう。目指せ宇宙人との交樹立。果ては銀河を統べる皇帝に。そしてハリウッドが如く唐突なキスシーンで幕を閉じるのだ。


 サイエンスフィクションやスペースオペラだってもうちょっと自重する妄想を垂れ流した閑話を繰り広げたいが、語り尽くせないため休題する。これは俺個人の日記であって、体裁を取り繕う意味はないのだから。


 日記とは己が魂を映す鏡なのだから自撮り写真を加工するが如く取り繕っても意味はない。どうせ本体は冴えない野郎のままなのだから、証明写真の不細工さを自分だと認める所から始めることに意味があるのだ。


 もし「証明写真でもイケメンだけどな」なんて輩がいたならば俺の前まで連れて来い。斬り殺してしんぜよう。美人? 天然素材を無駄にすることはできないから積極的な保護をすべきだろう。あわよくば俺が保護したい。


 ここまで書いて思ったことがある。


 我が魂は濁り過ぎていないだろうか。


 まあ濁りもする。


 黒よりも黒き暗黒期である受験戦争を終え、薔薇色の大学生活を送るはずだった。だが大学生になってから一年と少しが経過したというのに浮いた話の一つもない。あるのはひょっとこ顔な悪友と馬鹿をする日々。おかげで同期生の中じゃあ何かあったらアイツらのせいだろうと言われる始末。その立場を盤石にしたのはタチの悪いヤリサーに潜入して飲み潰されお持ち帰りする新入生を横取りしようとした件だろう。ひょっとこに誘われ潜入し、それがバレて、追い出されかけたからその場でヤリサーだと吹聴してやったら逆ギレされて俺ら二人とヤリサー男連中で乱闘騒ぎ。血で血を洗う抗争の果てに、皆が揃って警察沙汰に。


 本当ならその場にいた全員が停学、退学になるはすであったが水面下で政治力学があったようだ。被害届さえ出さなければ穏便どころか新卒数年分の慰謝料もふんだくれると提案されたのだからそういうことだろう。無論、飛び付いた。それは数年後迫りくる奨学金の返済に充てられることになった。


 社会的にはなかったことにされた事件であったが、お持ち帰り失敗して色々暴露したダサい奴という汚名はなかったことにはならなかったらしく今でも灰色の青春を送る羽目になっている。特に女性陣からの評判がすこぶる悪い。野郎どもからは反して勇者扱いだ。だがお前らの評価は別に欲しくない。


 己が魂を映す鏡というのはまさに金言である。


 己が魂を濁らせたのはひょっとこのせいであったことがわかったのだから。


 きっとひょっとこさえいなければ薔薇色どころかピンクで爛れた大学生活を送れるはずだった。きっとそうに違いない。

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