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妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~  作者: 狭山ひびき


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サラマンダーの行方 3

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 翌朝早く、エマは宿を出立した。

 ブラクテン国の関所は、ここから歩いて五、六時間ほどのところにある。

 今日中に関所を超えて、ブラクテン国内に入っておきたかったのだ。


(不思議なものね。あの関所を超えたとき、もう二度とブラクテン国には戻らないんだろうなって思っていたんだけど)


 両親の葬儀のあと、叔父によって強引にブラットフォード伯爵家から追い出されたエマは、逃げるようにブラクテン国を出た。

 生まれ育った故郷だけど、最後の記憶がつらすぎて、どうしてか懐かしいとも思えない。

 途中で休憩しながら歩き続け、昼過ぎに関所に到着したエマは入国税の銀貨一枚を支払ってブラクテン国に入った。


 ――お前のせいで兄や義姉は死んだんだ! 使用人も大勢な! 頭のおかしい悪魔付きめ‼


 関所をくぐった瞬間、ふと脳裏に蘇った叔父の罵声に、エマはぐっと拳を握る。

 頭を振って叔父の言葉を追い出すと、エマは荷物の中からブラクテン国の地図を取り出した。


 オーベロンからエルフの毒を受け取ったサラマンダーがブラクテン国のどこに向かったのかまではわからないので、国境付近の町や村を回りながら王都へ向かおうと考えている。

 その際、出会った妖精たちに話を聞いて回っていれば、何かしらの情報が手に入る可能性もあるだろう。


 エマは関所から一番近い町へ向かって、今日はそこで一泊することに決めた。

 普段は人の目を気にしてあまり話しかけないようにしているが、宿に住み着いているブラウニーを見つけてあとで話を聞いてみることにする。

 というのもブラウニーはマイペースな妖精で、家の細々とした仕事を進んでしてくれるとっても助かる存在なのだが、仕事の邪魔をされるのを嫌う。

 ブラウニーのルールを無視して話しかけると気分を害して姿を消してしまうので、エマは宿の出窓にキャンドルとドライセージ、それからクリームの入った小皿を置いて、ブラウニーの方から姿を見せてくれるのを待つことにした。

 ちなみにこのクリームは、宿のレストランで夕食の時にパンと一緒に出されたものを、少しだけ取り分けて持ち帰ったものだ。


 キャンドルに火をともし、部屋を薄暗くして、ベッドの淵に腰を下ろしてレース編みをしていると、夜中頃になって、コトンと小さな音がした。

 見れば、出窓に小人サイズのブラウニーが座ってクリームを食べている。

 ブラウニーは本来、身長が一メートルほどあるそうだが、普段見かける彼らは、ほとんどがこのような小人サイズだ。

 ポリーやアーサーが仮の姿を取るのと同じなのだろう。


「こんばんは、ブラウニーさん」


 話しかけると、ブラウニーは顔を上げて、ちょこんと帽子を脱いで挨拶をした。


「こんばんは、お嬢さん。お招きありがとう」

「こちらこそいらしてくれて嬉しいわ。少しだけお話が聞きたかったの。いいかしら?」

「ああ、構わないよ」


 エマは糸とかぎ針、編みかけのコサージュを置いて、出窓の前の椅子に座った。

 ブラウニーは名前をコットンと名乗った。


「コットンさん、わたし、サラマンダーを探しているの。アンヴィル国からこちらに向かったと妖精王から聞いたのだけど、見なかったかしら?」


 コットンはクリームを食べ終えて皿を脇に置くと、腕を組んでうーんと唸った。


「わしはこの家から出ないからわからんが、肉屋のところのホブゴブリンが、夜の空にサラマンダーを見たと言っておったがそれかもしれん。声をかけたのに無視されたと憤慨しておった」

「それは本当? そのサラマンダーがどこへ向かったのかはわかるかしら?」

「さて、それはどうだろう。さすがに方角までは見ていないと思うが」

「肉屋のところのホブゴブリンだな。俺が聞いてきてやるよ」


 アーサーがぴょんとベッドから飛び降りて、窓の外へ飛んで行った。

 ややして戻ってきて言うには、サラマンダーが飛んでいるのは見たが、どこに向かったかまでは覚えていないと言う。

 エマはがっかりしたが、オーベロンの言った通り、サラマンダーがブラクテン国にいたとわかっただけでも収穫だったと考えるべきだろう。


「ありがとう、コットンさん。これはお礼よ」


 エマがそう言ってピーナッツを三粒ほど渡すと、コットンはちょこんと礼をして、帽子をかぶってふわりと空気に溶けるように消えた。


(そんなに都合よくすぐ見つかるはずないもの、大丈夫よ)


 オーベロンに会うまでの七か月半、手掛かりすらつかめずにいたことに比べると、ぼんやりとでも居場所がわかっているだけましというものだ。

 エマは寝る前にコサージュの続きを編んでしまうことにして、再びベッドの淵に腰かけると、もくもくと作業を続けた。




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