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妖精女王の住む山 5

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 夜が完全に明けてから、エマたちはアーサーが見つけた東の川へ向かうことにした。

 川幅は一メートルあるかないかくらいだろう。

 深さもあまりなく、流れもそれほど急ではないが、流れている水はとても透き通っていた。

 アーサーからは飲めそうだと聞いていたので大丈夫だとは思うが、試しに少量口に含んでみて、エマはこのまま飲んでも問題ないことを確認すると、水筒に水を補充する。


「すごくおいしい水よ、これで水には不自由しないわね」

「遠慮なく水が飲めるのは嬉しいね」


 ユーインは笑って、直接コップで水を掬い取ると、ぐびぐびと勢いよく飲み干した。

 川まで少し距離があったので、喉が渇いていたのだろう。

 アーサーは川の中でバシャバシャと水浴びしている。


「それにしても、ピクシーに攫われそうになるほど妖精に好かれる体質なのに、あたしたちが見えないと言うのは難儀なものだねえ」


 エマの肩に座ったポリーが言った。


「そうね」


 エマはポリーだけに聞こえる小さな声で返事をする。

 昨日――というか今日の明け方だが、あのときはアーサーとポリーが気づいて、エマが間に合ったからよかった。しかし、この先妖精が多い場所へ行くときは注意が必要だろう。今日のようにユーインのことを気に入った妖精が連れて行こうとするかもしれない。


(……心配だわ)


 妖精に連れ去られそうになったなどと知るはずもないユーインは能天気な顔をして、「川の近くは涼しくていいね、昨日と大違いだ」などと言いながら軽快に山を登っている。

 目的地であるカルデラ湖は、妖精女王のお気に入りの場所だ。妖精女王ほどの妖精が気に入っている場所であれば、きっと大勢の妖精がいるだろう。


(目を離さないようにしないと)


 アーサーやポリーにも頼んで、ユーインの周りを注意深く観察していてもらった方がいい。


「エマ、ここから少し足場が悪いみたいだ」

「本当ね」


 傾斜はそれほどではないが、ユーインが言った通り少し大きな岩が堆積していて歩きにくそうな場所が続いていた。

 川のそばということもあって、滑りやすくなっているかもしれない。

 慎重に足を進めていると、エマの目の前にぬっと手が差し出される。


「はい。転ぶと危ないからね。俺が支えるからゆっくり行こう」

「あ、ありがとう」


 差し出された手に手を重ねると、ぎゅっと握りしめられた。

 エマよりも高い体温と大きな手に、どうしてだろう、心臓がざわざわとせわしなく鼓動を打ちはじめる。

 何故か、昨日ちらりと見たユーインの裸まで思い出してしまった。


(ど、どうしたのかしら、わたし……)


 もう十日余り一緒にいるというのに、今更ながらに目の前の彼が男の人なんだと認識をはじめた自分がいる。きっと、男の人と手をつないだ経験がないからだろう。そうに違いない。

(なにドキドキしているのかしら。ユーインは……そう! 恋人がいるのよ。そして男の人が好きなんだもの。わたしがドキドキする必要はどこにもないんだわ! 落ち着くのよ!)

 そして、きっとユーインもエマのことなど意識しているはずもない。

 平然とした横顔がそれを物語っているのだ。

 そう思うと、ドキドキしている自分が滑稽に思えてきた。同時に、何故だろう、ちょっとムッとする。


(……きっとユーインにとっては手をつなぐのなんて、どうってことないことなのね)


 エマはぎゅっとつながれた手を見つめて、無性に情けない気持ちになったのだった。




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