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三途の信号

作者: 秋村 百合華

 いつもより遅くなった予備校の帰り道。赤信号が目に映るが、左右を見て車が来ないことを確認して

「別に信号無視くらい、いいよね。」

と駆け足で渡る。

 最高気温38度を記録した昼間から時間は経っているはずなのにまだ暑い。むしろ体感としては昼間よりも暑い。前から赤いライトを回転させた消防車がやって来て、私を通り越すとすぐに音が止んだ。なんだか気味が悪くて後ろを振り返ることはしなかった。


「もう、また信号赤だ。」

 そう思いつつ信号を無視して先を急ぐ。突然足を取られて、派手に転んでしまった。鞄の中身も全部散らばり、慌てて拾うが急に指に痛みが走る。手元を見るとペンケースから、刃が出たままのカッターがのぞいており、どうやらそれで切ったらしい。

「刃が出たままカッターをしまったっけ?」と不思議に思いつつも、通い慣れた道を歩いくが、いつもよりも仄暗く不気味に感じる。


「えっ…?ここでも、赤信号?」

 二度あることは三度あるという言葉を思い浮かべつつ、一刻も早く家に帰りたくて、信号が青になるのを待たずに先に進む。

 一度目の信号無視をしたときよりも気温が上がったと感じるくらいにジメジメしていて、額から汗が垂れ、喉が渇く。

 信号を渡ったところに自動販売機があるのに、足が重くてなかなか前に進めない。やっとの思いでたどり着くと水以外は売り切れで、仕方なく水を買う。値段を見ると今どき60円。6枚の硬貨を一つずつ入れて、ボタンを押すとガコッと音を立てペットボトルが落ちてくる。

 体に力が入らず、蓋がなかなか開かない。なんとか力を振り絞るとキャップが動き出したが、勢いあまって、ペットボトルを落としてしまう。歩道から車道への坂を、液体をばらまきながら川を描いてペットボトルは転がっていった。

 ペットボトルを手に取るために、地面に描かれた小さな川を跨ごうとすると急に足がすくむ。おそるおそる顔を上げると、息を呑む。そこには、これまで歩いてきた住宅街はなく、地獄絵が目の前に広がっていた。暗がりの中にいる人々の白装束は赤く染まって、人が人を…


 突然脳裏に浮かんだのは、さっきまで受けていた予備校の授業は現代文で、長文読解の題材が仏教だったこと。

 三途さんずとは、火で焼かれる「火途(かと)」、刀で虐げらる「刀途(とうず」、互いに食い合う「血途(ちみち)」の3つの道を…三途の川は六文銭がないと渡れない…

 文字がグルグルと渦巻いて頭が割れそうっ!!!



 ラジオから朝のニュースが流れている。パーソナリティの男性が抑揚のない口調のまま告げる。

「次のニュースです。昨夜遅く交差点でひき逃げがあり、女子高生が死亡しました。現場には、鞄の中身とペットボトルが散らばっており…

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

もしよかったら、★やコメントをいただけると、励みになりますので、よろしくおねがいします。

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