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(7)旦那さんてどんな人?

 ここまできて同機社大学国文科720名に『教授たちは鏑木紫陽を取り合っている』ことが隅々知れ渡った。というより、彼女の旦那を取り合っているらしい。名前は『タカハシコレヤ』と言うらしい。なんかエライ発見をして新聞に載ったらしい。大学設立以来の秀才らしい。ハッキリ言って伝説らしい。


 紫陽の元に学生が群がった。


「旦那さんてどんな人〜〜〜〜〜!?」


「………………本ばかり読んでいる人……」


 そう言うしか無かった。

 






 夫を一言で表現するなら『本ばかり読んでいる人』である。


 月曜から金曜まで仕事。土曜も半日はだいたい休日出勤。午後から散歩。月2回は墓参り(両親とも死去)。日曜午前中は買い物。午後から掃除と料理(一週間分の食事の下ごしらえ)


 これ以外は全て本を読んでいるのである。


 朝新聞。お風呂と料理と食事以外全部読書。


 ソシャゲやらない。ライブいかない。アイドルは一人も知らない。TwitterもInstagramもやらない。スキーもスノボも行かない。もちろんサーフィンなんかやらない。

 お酒もほぼ飲まない。タバコは吸わない。

 テレビは1日1時間。ニュースしか見ない。


 LINEは業務連絡のみ。パソコンを立ち上げると仕事か論文を読んでる。


 たま〜の余暇は大型書店に行って本の物色。


 本のために働き、本のために生きている男であった。


「ウッソォ。そんな人と結婚して何が楽しいのぉ〜」

 女友達にあきれられる。


「でもいいなぁ〜。卒論代わりに書いてもらえばいいじゃな〜い?」


 いいえ。私の夫はバカ真面目で。代筆なんか死んでもしないと説明するしか無かった。







 教授たちの攻勢は続く。


 大葉からLINEが届いた。

 先日無理矢理友達申請させられたのである。


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こんばんは♬ 紫陽チャン(^ ^)

何してたのカナ!?


オジサンは松尾芭蕉と河合曾良かわいそらについて考えてました。特に蕉風俳諧についてデス(*^ω^*)


是非紫陽チャンと旦那サマの是也クンでオジサンの研究室に遊びにきて欲しいナ

♬☆〜(ゝ。∂)

お返事待ってま〜〜〜す(//∇//)♡♡♡

=======================


 ひいいいいいいい〜〜〜〜〜〜〜〜。


 ゾワッときたぁ!!!


 半泣きでタカハシに見せるとしばらくして「…………そこはかとなく昭和軽薄体を思い起こさせるね……」と言われた。

「オジサン構文ですよ」


「オジサン構文?」

「オジサンが若い子に下心満載で、それを隠しつつ文章を打つけど滲み出ちゃってるやつです」


 オジサン構文と言うか、オジサンコウフンと言うか。


 しかし狙われているのは紫陽ではなく、来年四十の彼女の夫である。


「是也さん〜〜〜っ。大学来てくださいよ〜〜〜っ。それで私の代わりに卒論断ってくださいよ〜〜〜〜〜っ」


 タカハシは困ったような顔で笑ったが「じゃあ……行こうか」と言ってくれた。


 ちなみに『新聞に載って従来の学説をひっくり返した』は「そんなことあったかなあ」とうまく誤魔化されてしまった。







 手土産を持って大葉の研究室に夫妻で行った。

 大葉が文字通りタカハシに抱きついた。

 木に張り付くガマガエルである。


「高橋くん〜〜〜。待ってたヨォ〜。ね、大学帰ってきてよぉ〜。うちには武川みたいな政治屋しかいないんです。あいつホント俗物の極みっ! 君みたいな本物の学者が足りませんっ。こんなんじゃ同機社の未来はお先真っ暗だっ!!」


 タカハシ苦笑。


「いえいえ僕なんか……。天野先生がいらっしゃるじゃないですか」

「天野先生は本物の学者だけど、孤高すぎて学閥にはサッパリだぁ〜〜〜〜」


 でしょうねぇ?


 すぐに大葉助教授専門の松尾芭蕉研究の話になったが、5分でついていけなくなってしまった。


 テニスの審判のように、右・左・右・左と会話のラリーに目線を向けるのみ。


『奥の細道』を原文で議論していることだけはわかる。


 大葉は嬉しそうだった。『これだよこれ!』という顔をしている。『久々にインテリジェンスあふれる会話してるよ!』


 そこに平畑アリサが突入してきた。


「タカハシクン来てるんだってぇ〜〜〜〜〜〜〜〜」


 地を這うような声である。


 白いワンピースでもがくように空中を腕でかき回すとタカハシの背中に覆いかぶさった。アリサは一応女だが全然嫉妬心がわかない。『おっ夫が取り憑かれる』とそこばかりハラハラした。


 背中にアリサを乗せたままタカハシは大葉と会話を続けた。時折『ポンポン』とアリサの背中を優しく叩く。


 亡霊の子守りかお前。


 渡部非常勤講師まできた!


「君がタカハシくん〜? 初めまして〜。ね〜。新聞載ったってどんな気持ちぃ〜!?」


 出会って2秒で聞くことじゃないだろ!


 あ、いえ、吉本教授のご指導に従っただけで……とその時だけはタカハシがゴニョゴニョする。


 さらにさらに天野啓治まで来た! ラスボス!! 常に不機嫌オーラで場を圧している天野。あんな機嫌いい顔初めて見た。


 タカハシの肩を抱いて「どうした! 古巣が懐かしくなったのか!」とか言ってる。


 鷲尾名誉教授は大学自体に来てないそうだ。


 そして最後まで武川智樹は姿を見せなかった。


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【次回作はこちら】『16万年前の隣人』
― 新着の感想 ―
[良い点] 阪神の和田監督を思い出してしまいました(;゜д゜) コレヤ氏、モテモテではないですか〜 きっと彼のことだから絡んでくる講師陣を薙ぎ払うのでしょうが、夫が有名人なのも良し悪しですね(笑)
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