(4)サトルの近況
「そんでぇ。サトルは最近どうなのよぉ」
「最悪だな!!」
お手伝いさんが紅茶とシフォンケーキを出してくれたので会釈して受け取る。
サトルは授業の補習としてあげたYouTubeが大ブレイク。さらにテレビに出て時の人だった。
「えー。超順調じゃん。この間『unn unn(ウンウンー20代向け女性ファッション誌)』で特集されてるの見たヨォ」
『今抱かれたい男たち』で綾池剛の後がサトルだったのである。
「お前のせいだカブラギ!」
「へ!?」
「何でマネージャーを鈴原にしたんだ!」
鈴原美鳥。紫陽の高校1年後輩。元演劇部員。
鈴原は高校で演劇部に入れ上げてしまい、なんと大学を3ヶ月で辞めてしまった。
そして劇団に所属したのである。
劇団員として活動するため定職にはつけず、アルバイトを転々としていたが「それなら……」と紫陽がYouTubeの仕事を斡旋したという訳だ。
「私はYouTubeの仕事を紹介しただけで、マネージャーにしたのは是也さんですぅ」
タカハシは本格的な芸能活動を始めたサトルのマネージャーにミドリをつけた。
『鈴原なら見張り役として最適だ』
タカハシの言である。
◇
確かにサトルの見張り役として最適であった!
だいたいの女が『サトルゥゥゥゥ♡』と目をハートマークにする中絶対にいいなりにならなかった。
「あいつこの間なんか合コンに乱入しやがって何考えてんの!?」
「仕事サボって行った合コンでしょ」
「『どうせ女のところか、女のところか、女のところにいると思って』だってよ!」
「その通りじゃん」
紫陽もサトルと仕事をしたのでよくわかっている。
この男とにかく享楽的。適当。仕事は即アウトソーシング。
テレビ局の打ち合わせも平気でマネージャーに任せ、合コンに行ってしまうような男である。
ミドリくらい厳しく管理してくれないと糸の切れたタコみたいにどこかに飛んでいってしまう。
「あいつ俺の彼女のスケジュールまで管理しててよー。ほんとマジないわ」
紫陽はシフォンケーキに生クリームをいっぱいつけて口に運んだ。
彼女ね。今総勢15名だっけ?
◇
与謝野晶子全集に四苦八苦しながらも楽しく学業と新婚生活に邁進していた高橋紫陽。
異変は大学4年の4月に起こった。
◇
卒業論文を見てもらう先生を6月までに決めなければならなかった。『卒論担当官』と言う。
紫陽の大学では6名いる。担当官1人につき、生徒の定員は30名。
厳しい先生(天野啓治)の下につけば悲惨だし、楽な先生(武川智樹)であれば遊んで暮らせる。
生徒の間に繰り広げられる情報戦。みな必死。
ところがその卒論担当官が、『鏑木紫陽』獲得に血道を上げ出してしまったのである。