表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/29

(1)え? もう卒論準備ですか?

全28話完結済みです╰(*´︶`*)╯♡

「卒業論文の準備はしなくていいの?」


 夫の是也これやに言われて高橋紫陽たかはししようは『えっ!?』となった。


 準備って。私はまだ大学3年ですけど。論文提出まではあと2年もありますけど。


「あと2年しかないよ。文献を読み始めないと間に合わないだろう」


「は……はぁ……。まずは何から始めるべきなのでしょうか……」


 夫の是也は高校の国語教師だ。2人の出会いは6年前。教師と生徒としてであった。


 妻紫陽は『タカハシ先生』に一目惚れ、自身が成人するまで待った。


 そんで成人した瞬間に全力で告白。後は押して!  押して!  押して押して押しまくって無事21になる目前に『ハタチ妻』になったのである。


「題材は何にするの?」

「もちろん与謝野晶子『みだれ髪』ですよ!!」紫陽食い気味。


 高橋紫陽ーー旧姓は鏑木なのだがーーカブラギにとって『みだれ髪』は特別な本だった。


『みだれ髪』とは、与謝野晶子の処女歌集である。 1901年(明治34年)8月15日出版。当時の彼女は結婚していなかったので、旧姓の鳳晶子ほうあきこ名義であった。


 明治の日本は女性が赤裸々に己の恋や性について語れる時代ではなかった。


 しかし晶子は妻子のいた鉄幹(後の夫)への恋心や恋の成就について歌い上げ、センセーションを巻き起こす。


 紫陽は『みだれ髪』を高校入学してすぐ買い求めると、夢中になって読んだ。


 妻子ある『先生』に恋する晶子と、まだ高校生で教師に恋するなど許されない自分がオーバーラップしたのである。


=======================

やは肌のあつき血汐にふれも見でさみしからずや道をとく君

=======================


 この歌に触れたときは思わずその場で立ち上がってしまった。


「これだぁぁぁぁぁ! これが私の気持ちだぁぁぁぁぁ!!」


 興奮した。


 何せ当時の『タカハシ先生』はあだ名が『得体の知れない鬼太郎』『スカした鬼太郎』『友達ムーミン)のいないスナフキン』なのであり、プライベートについて尋ねると


「そんなこと聞いてどうするの?」


 と一蹴されてしまう。

 どんなに近くに寄っても逃げてしまう『蜃気楼』みたいな男で、紫陽は淋しい思いをした。


『今日もタカハシのこと何にもわからなかったナァ』としょげて帰り、部屋の中でペンギンのぬいぐるみを抱いて『みだれ髪』を読む。そんな日々だった。


 先生。ご存知ですか。私の中に先生への想いが熱い血潮になって巡っているんですよ。それに触れもしない人生寂しくないですか。







 これは高橋紫陽22歳。卒論提出までの苦闘の記録である。


 え? たかが学生の卒業論文が何でこんな騒ぎになるの!?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【次回作はこちら】『16万年前の隣人』
― 新着の感想 ―
[一言] わくわくと読み進めて最後のイラストにぐはっ.°(ಗдಗ。)°.となりました 割烹でも拝見してましたが、やはり、よき(●´ω`●)
[良い点] キターーー(♡∀♡)ーーー!!! 「そろそろ高橋夫妻、来ねえかな」と思ってました!あざーっす! お子様たちに見守られながら、母ちゃん与謝野晶子がんばったのですね(笑) めっちゃ楽しみにし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ