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第8話三蹴士

『』内は外国語で話しています

キャンプが始まって10日経った。


キャンプに来る前より辛いフィジカルトレーニングのせいで、体のあちこちが筋肉痛だ。


それはマイケルや植森も同じらしく、いつも部屋に戻れば、すぐにぐったりとベットに倒れ込んでいた。


誰も口を開かず、そのまま寝てしまうこともあった。




そんなきついフィジカル練習が終わり、ようやく戦術練習が始まった時、練習着を来た外国人が三人やって来た。


『やっと来たか、三人共』


監督がスペイン語で三人に言う(ちなみに翻訳の仕事をしている姫花流の母親から教えてもらったから俺も喋れるし、聞きとれる)。


「誰?」


側にいた植森に聞く。


「東京の外国人だよ。全員アルゼンチン人。褐色で髪が赤いのがフォワードのフラビオ・ペルセベス。肌が黒くてスキンヘッドなのがボランチのブエゴ・ボカティージョ。髪長いのがセンターバックのピサロ・フェルナンデス」


植森が一人一人説明してくれた。


三人共すぐに練習に入る。


この時はまだこの三人との力の差を―――


俺は知らなかった。




今回はサイドからセンタリングを上げ、攻撃側がゴールを狙う練習だ。


まずはフラビオと角田さんが呼ばれた。


フラビオは角田さんより20センチくらい小さい。


クロスを上げるのは田原さんだ。


コーチの笛が鳴る。


田原さんがクロスを入れる。


ゴール前で二人が競り合う。


フラビオが助走なしで跳び、角田さんにぎりぎり競り勝ち、ゴールを決めた。


ありえないくらいの跳躍力に声を奪われる。


「次、マイケルとピサロ!」


マイケルとピサロが呼ばれる。


田原さんがクロスを入れ、ピサロとマイケルが競り合う。


身長ではマイケルの方が勝っていたが、ピサロはマイケルをはじき飛ばし、マイケルは肩から落ちた。


マイケルはうずくまったまま立ち上がらない。


監督やトレーナーがマイケルの周りに集まり様子を見る。


そのまま宿舎に連れて行かれた。




その後、まるで何事もなかったかのように練習が続いた。


「‥‥選手が怪我した後だって言うのに、誰も心配とかしないのか‥‥って顔してるな、小僧」


隣に立っていた清水さんに見抜かれていた。


素直に頷く。


「‥‥甘すぎるな、小僧。そんなことだから非現実な目標を立ててしまうんだな」


相変わらず口がすごぶる悪い‥‥というか嫌味な人だ。


「‥‥ここはクラブ活動ではない、俺達はプロだ。誰かを蹴落としても成り上がらなければいけない。蹴落とす機会を作る奴が悪いんだ」


静かに低い声で、まるで呟くような言葉だった。




次の練習は1on1だった。


始めは天野さんとブエゴからだ。


ゴールキーパーの山下さんからボールが出され、それをトラップして始まった。


ブエゴがすぐに距離を詰める。


天野さんが右に行くフェイントをかけ、ブエゴを左から抜いた。


そのままドリブルしようとした瞬間にブエゴがボールに後ろからスライディングした。


見事にボールだけに足をあてて、ボールを奪った。


半端じゃない反射神経とディフェンス力だ。


「次、フラビオと宮原」


今度はフラビオが山下さんからボールをもらった。


フラビオはでドリブルで宮原さんの前まで行くと左、右と二度続けてフェイントをいれて股を抜いた。


さらにドリブルで進み山下さんをキックフェイントでかわして無人のゴールに蹴りこんだ。


スピードもテクニックも兼ね備えることを見せ付けるプレーだった。


「次、亀山とピサロ」


俺の番が来た。


山下さんからボールを受け取り、ドリブルした。


マイケルよりフィジカルが弱い俺がまともにぶつかれはじきとばされるのは目に見えていた。


だからスピードで抜くしかない。


フェイントを使いピサロを抜き山下さんと一対一の状況を想像した。


ピサロが近くに来た。


ボールを止め、右に大きく踏み込む。


ピサロがつられる。


俺がアウトサイドで抜いた一一一はずだった。


だけどピサロはすぐにショルダータックルを仕掛けて来た。


もろにぶつかり、飛ばされた。


なんとか受け身をとって怪我だけはしなかった。


「ワルい、ダイジョブか?」


片言の日本語で話し掛けて来た。


俺が頷いたら安心そうに微笑んだ。


『ピサロ! 今のファールになるぞ!』


天野さんがスペイン語で叫ぶ。


『分かってるよ!』


ピサロがそう言い返して元々いた場所に戻った。




宿舎に帰ると、マイケルがいた。


「肩、大丈夫か?」


「ただの打撲だぜ。心のダメージは大きいけどな‥‥今まで空中戦で負けた事なかったから」


こいつぐらいでかけりゃ普通そうそう負けないだろう。


ピサロが凄すぎるんだ、と信じたい。


「これがJ2レベルって言うならさっさと超えなきゃならねぇぜ‥‥」


マイケルはそう言って部屋に戻った。



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