第7話キャンプ
宮崎キャンプに行く当日、いつも通り月美さんに起こされ、朝食を食べた。
昨日、植森が帰った後に手荷物は準備したから、もう後は行くだけになっていた。
マイケルに送ってもらうために『食堂』で待っていると、月美さんが話しかけてきた。
「今日から一ヶ月頑張ってねっ!」
明るい言葉のトーンとは裏腹にどこか悲しげに見えた。
「どうかしたんですか?」
「何が?」
その続きを言う前にマイケルが扉を開けた。
「行くぜ、亀山」
食堂に運んであった手荷物を持って(ちなみにスーツケースはもうクラブに持っていてある)食堂を出る。
「いってらっしゃい」
そう言った時もどこか寂しそうな顔をしていた気がした。
クラブに着くとバスの前にみんな集まっていた。
「遅いぞー」
「すいませーん」
急いでバスに乗り込んだ。
イヤホンで音楽を聴いている植森の隣に行く。
マイケルは後ろの方に座った。
バスが出発した。
空港に着くと30人くらいのサポーターが駆け付けていた。
「頑張ってー!」
「ケガするなよー!」
サポーターの声援を背にエスカレーターで上がる。
隣にいたマイケルに月美さんのことを聞こうとしたが、マイケルは何か苛立っている。
「うるさいぜ‥」
マイケルがつぶやく。
「そういうこと言わないの、ありがたいことなんだから」
植森が小さな声で注意した。
キャンプ地に着くと、施設の人達が歓迎してくれた。
マイケルはまた「うるさい」と文句を言っていた。
何となく言うタイミングではないような気がして、言うのをやめた。
施設の人達に施設を案内してもらい、部屋に行った。
俺はマイケル、植森と相部屋だった。
月美さんのことを話そうとしたらすぐに二人ともどこかに出かけた。
しょうがない、本人に電話するか‥‥
財布を持って公衆電話のあるところに行った。
公衆電話は玄関にあった。
テレフォンカードを入れ寮に電話を入れる。
すぐに月美さんは電話に出た。
「‥もしもし」
電話の声はいつもの元気な声と違う気がした。
「月美さん?」
「亀山? どうかしたの?」
心配になって‥‥なんて照れ臭くて言えない。
「いや‥なんか元気なさそうだったから」
「そんなことないよ! 何言ってるの!」
その声は泣き声のように聞こえた。
「泣いてるんですか?」
「泣いてなんかないよ、気のせいでしょ」
「‥‥涙声ですよ」
「えっと‥‥玉葱切ってたんだよ!」
「安いから明後日買うっていてたじゃないですか」
「うっ‥‥」
「‥‥月美さんって嘘ド下手ですね」
「う、うるさいな!」
「で、なんで泣いてたんですか?」
「‥‥笑わない?」
「笑いませんよ」
何か大変なことが起こったのか。
緊張して、手に汗がにじむ。
が、月美さんの口から出た言葉は以外なものだった。
「‥‥寂しかったから」
小さな声で、ぽつりとつぶやくように言う。
「は?」
「みんながいなくなって寂しかったの!」
なんか拍子抜けする。
緊張の糸が解けた。
「ふふ‥ははっ!」
「ちょっと、笑わないっていったじゃん! だから言いたくなかったのに!」
「だって一一ははっ!」
「もう! 笑い過ぎだよぅ‥‥」
また泣き声になって来た。
「あ、ちょ、泣かないで下さいよ‥」
「じゃあ‥‥もうちょっとだけ‥‥このまま‥‥話してていい?」
子供が甘えるような声で言う。
「うん‥‥だめ?」
「いいですよ」
その後、5分くらい話して、明日また電話することを約束して、受話器を置いた。