第5話紅白戦
練習が始まって3日経った。
フィジカル練習ばっかやっててかなり疲労はたまってきたけど、かなり充実してる。
今日もマイケルに送ってもらい、練習場に着いた。
まだ練習が始まっていないピッチではすでにボールを使って練習してる選手がいる。
「亀山! 急げよ!」
副キャプテンの宮原保さんが叫ぶ。
いつも植森や宮原さんや天野さん、ディフェンダーの新垣正義さんや清水真琴さんにまぜてもらうのが俺の日課になっていた。
マイケルはこのチームのキャプテンでゴールキーパーの山下洋明さんにキーパーに取りづらいシュートの打ち方を教わっている。
宮原さんは4年前に浦和ティグレから移籍してきたディフェンダー。
左サイドバック、右サイドバック、センターバックをこなす東京のディフェンスの中心の選手で、走力、サイズ、フィジカルと恵まれた身体能力の高さをいかすディフェンスをする、8年前のオリンピックのメンバーの一人。
一応月美さんの兄らしいが全然似てない。
清水さんは宮原さんと同じ年にパンテーラ神戸から移籍して来たベテラン選手。
典型的な王様タイプ、つまり守備をあまりしないパサーだ。
あんまり性格がいいとは言えない人だ、と植森が言っていた。
山下さんは東京ミストラルのユースの元となるチームから入団したミストラル一筋の人で、日本代表候補に選ばれた事もあるベテランだ。
練習の時間になるまで、ボールを使って練習してた。
「なんか選手多くなってない?」
練習の休憩中に植森に聞いた。
昨日よりも人数が多くなっている気がした。
「今更気付いたの?」
植森が呆れ顔で答える。
「練習生とかいるからね、始動の時より5、6人多いよ。Jチームはだいたい所属選手以外の選手がいるよ。今日はボール使った練習するから呼んだんじゃない? 今日の調子がいい練習生はキャンプに呼ばれるんだよ」
「へぇー」
「今日はユースの選手も呼ばれてるみたいだけど」
その時、監督の笛の音がした。
「紅白戦するから呼んだらビブスもらいに来て」
監督がそう言ってチームを分けだした。
俺のチームは3−5−2のフォーメーションで、フォワードはマイケルと俺、攻撃的ミッドフィルダーに田原さん、左サイドに犬飼さん、右サイドに杉本さん、守備的ミッドフィルダーに李さんと鳳さん、センターバックは角田さん、新垣さん、宮原さん、ゴールキーパーは山下さんだ。
相手チームも同じフォーメーションだ。
20分ハーフの紅白戦開始の合図の笛が鳴る。
相手ボールから始まった。
相手のバックパスをチェイスする。
相手が守備的ミッドフィルダーの位置までボールを下げると、右サイドにボールを出した。
相手の右サイドの選手がドリブルで杉本さんを抜こうとするが、杉本さんが奪って逆にそのままドリブルで持っていく。
そのままペナルティーエリアの外側までドリブルで進み、ファーサイドにいるマイケルにセンタリングを上げる。
マイケルが上手く合わせ、ヘディングでゴールを狙ったが、相手ゴールキーパーの松本さんが弾いてコーナーキックになった。
ペナルティーエリア内には俺の他にマイケル、犬飼さん、鳳さん、角田さんがいる。
コーナーキックのキッカーは田原さんだ。
精度の高いハイボールをニアサイドにいた角田さんが頭で合わせた。
ボールは松本さんが弾いたが、こぼれ球がマイケルの目の前にこぼれる。
左足ボレーでゴールを決めた。
マイケルはたいして喜びもせず、キックオフの位置に戻った。
ゲームが再開し、相手ボールから始まった。
再び守備的ミッドフィルダーが右サイドに出す。
今度は右サイドの選手が攻撃的ミッドフィルダーの清水さんにパスを出し、トップ下の選手がスルーパスを出した。
スルーパスが天野さんに渡り、そのままドリブルで進む。
新垣さんを抜いてシュートを打ったが、シュートは山下さんがキャッチしそのままマイケルに向けて蹴った。
マイケルがヘディングで俺に落とす。
ボールをトラップしてドリブルで進み、そのまま相手ディフェンダーを一人抜いた。
しかし、抜いた瞬間にガツンとぶつけられる。
ボールを奪われカウンターとなった。
「ユース選手に奪われてんじゃねぇよ!」
杉本さんが戻りながら叫ぶ。
俺もすぐに守備をするため戻る。
ボールはもう相手の右サイドまで運ばれた。
右サイドから精度の低いセンタリングが上がる。
クロスは角田さんがヘディングでクリアしたが、クリアボールを清水さんが直接打った。
ボールは山下さんの手をかすめネットを揺らす。
同点になった。
今度はこっちのボールで始まる。
始まってしばらくはボールが行ったり来たりだったが、宮原さんがボールをマイケルに出すと、マイケルが田原さんにダイレクトで繋げた。
田原さんはダイレクトで犬飼さんにパス、犬飼さんはマイケルとのワンツーパスで相手を抜き、俺の胸元にパスを出した。
胸でトラップすると、さっきのユース選手がボールを奪いにくる。
ユース選手に背を向け、ボールをキープ、走ってきた田原さんにバックパス、そのボールを田原さんが杉本さんにダイレクトでパスした。
俺がユース選手を抜いてフリーでペナルティーエリアに入ると杉本さんがクロスを上げる。
俺がヘディングで合わせるとボールはゴールに向かっていったが、松本さんに弾かれた。
その弾かれたボールは俺の前にこぼれ、ダイビングヘッドでゴールに押し込んだ。
これで再び勝ち越した。
田原さんに頭を軽く叩かれた
「ナイスシュート」
この後、両者得点出来ず、俺もあまり活躍出来ず終わった。
「次の紅白戦出ない人は紅白戦出る人にビブス渡して」と言った監督に従い、次の出番の植森に渡して休んでいると、さっきのユース選手が近づいてきた。
俺より背が高く、まさしく大型センターバック、といった感じの選手だ。
「俺、天野浩司の弟で淳敏っていいます! よろしくお願いしますっ!」
そういえばどこか天野さんに似ている。
「亀山俊彦です」
「そんなっ、敬語なんて使わなくていいです!」
「そう?」
「はいっ!」
淳敏は「それではまた!」と言って走って言った。
「元気だね〜」
いつの間にか隣にいた犬飼さんが言った。
清水さんもいる。
「あいつU−17のキャプテンなんだよね〜。東京はユースはまだ名門だからね〜。優秀な選手が多いんだよね〜。あいつの他にもフォワードにも一人、ミットフィルダーに二人代表がいるからね〜」
知らなかった‥‥
「‥‥だからと言ってもプロなら抜けて当然だがな、小僧」
清水さんが薄笑いを浮かべる。
確かに植森の言う通り、あまり性格はいいとは言えないのかもしれない。
練習が終わり、着替えていると、マイケル、植森、松本さん、犬飼さんの四人がスタッフに呼ばれてた。
雑誌の取材らしい。
「んじゃ行ってくるぜ」
マイケルがそう言って四人がクラブハウスに入っていった。
「何の取材だ?」
田原さんが天野さんに聞く。
「週間Jの『今年の新人ベストイレブン』だと思いますよ」
『週間J』はJリーグだけを取り上げる日本では珍しい雑誌だ。
俺だけベストイレブンに入らなかったのか‥‥って、俺は無名だから当たり前だけど。
「来週あたりに載るんすかね」
「キャンプ地で買えるかもな」
そう、明日と明後日は休み、その次の日から宮崎キャンプが始まる。
そこからは外国人選手も参加し開幕戦メンバー入りを狙うサバイバルが始まる。