第4話始めての練習
歓迎会のあった翌日の朝、ドアをドンドンと叩く音がした。
半分眠りながらドアを開けると、月美さんが立っていた。
「ご飯だよ! 早くしないと李に全部食べられちゃうからね」
昨日の様子を見てるととても脅しとは思えなかったので、急いで月美さんについて行った。
月美さんについて行った所は寮の裏側だった。
そこには裏口のような扉があって、上には「食堂」と書いたプレートがあった。
どうやら食堂のつもりみたいだ。どう見ても食堂には見えないが。
「ここが食堂だからね。朝はここで食事してね」
「昼と夜は?」
「二部練習の時は昼はクラブハウスで食べて、晩御飯はこっちで作るよ。午後練習ならここで全部作るよ―――じゃ、入って」
月美さんが『食堂』のドアを開けた。
『食堂』の中ではすでに皆料理を食べ始めていた。
まだ俺の分は残っていた。
俺は椅子に座り、焼き魚や味噌汁など、純和食な朝食を食べ始めた。
正直、昨日の植森の料理より上手かった。
俺が朝食を食べ終わる頃には、皆とっくに食べ終わって、食堂から出ていっていた。
「美味しかった?」
月美さんが聞いてきたから、正直に「はい」と答えた。
すると、月美さんは嬉しそうに、「良かった!」と言い、片付けを始めた。
「これから俺どうすれば?」
「練習行く準備して、誰かに送ってもらって」
月美さんが食器を洗いながら言われた。
部屋で準備をしていると、ドアのノックの音がした。
「早く準備しろ、置いてくぜ」
マイケルの声だった。
どうやら送ってくれるらしい。
「マイケル免許持ってるの?」
「バイクだけどな。早くしないと置いてくぜ」
急いで荷物をまとめてドアを開けた。
階段を下りてると、月美さんが部屋から出て来た。
「いってらっしゃい! 練習頑張って!」
その言葉を言った時の笑顔は今まで見て来たなかで一番綺麗だった。
「行ってきます」
出来るならずっと笑顔見てたかったけど、マイケルを待たせてたから、すぐに駐車場に行った。
練習場に着くと、既に10人前後選手が来ていた。
マイケルが隣のロッカールームに案内してくれた。
「ここがお前のロッカーだぜ」
マイケルが指したロッカーには「亀山俊彦」と名前があった。
ロッカーを開けるとチームの練習着が掛かっていた。
うっすらと涙で前が滲んだ。
「‥こんなことで泣いてたらきりねぇぜ」
マイケルが自分のロッカーにこの前貰ったユニフォームを掛け、着替えだした。
マイケルや植森は練習着だけは貰っていたみたいだ。
「お前は感動しないの?」
入団会見の時もそうだった。
こいつはたいして嬉しそうにしていなかった。
「‥‥嬉しいことは嬉しいぜ。でもお前よりは嬉しくないんだろうな、多分」
「何でだよ」
「俺はプロになるとずっと思ってた。それにここがゴールじゃないぜ。U−18、オリンピック、日本代表、海外‥‥まだ上はあるぜ。俺はここにずっといるつもりはさらさらないし、チームの結果に興味ない。ただ俺が活躍出来るかどうかだけだぜ―――ここは俺の踏み台に過ぎねぇんだよ」
マイケルはそう言って「早く着替えろよ」と言って先に練習に行った。
しばらくすると、眼鏡を掛けた茶髪の人、髭を生やした長髪の人が入って来た。
「お、今年のルーキーじゃん?」
眼鏡の人が話し掛けてきた。
「俺、鳳尊。こっちは――」
「角田和紀だ」
眼鏡を掛けた方が鳳さん、髭、長髪の人が角田さん。
「亀山俊彦です、よろしくお願いします」
「よろしく」
角田さんはそう言って着替え出した。
俺は着替え終わって外に出た。
練習場に行くと、ボールを使って練習を始めていた。
あちこちで4対2や3対1が行われていた。
その中で一人シュート練習をしていた。
マイケルだった。
マイケルが誰かGKに手伝ってもらってシュート練習をしていた。
「亀山!」
3対1の練習をしていた杉本さんに呼ばれ、輪の中に入った。
30分位すると、全員集まった。
選手とコーチを合わせると35名ぐらいらしいが、帰国し、まだ帰って来ない選手もいるから今は30名くらいだろう。
監督が頃合いを見計らって笛を吹いた。
選手が皆監督の近くに集まる。
この監督は新庄豪といって、元日本代表でエース、ワールドカップ予選で何度もゴールを決めている。
監督としては一度別なチームを昇格させたらしい。
新庄監督とは昨日も会ったけど話してない。
昨日はスーツを着ていたが、今日はジャージ姿だ。
かなりダンディーな人で、昨日のスーツは似合っていたけど今ははっきり言って似合ってない。
「練習を始める前に今日から練習に参加する選手から自己紹介してもらう」
そう言って「亀山!」と俺の名前を呼んだ。
しかたなく前に出て昨日と同じように自己紹介した。
また優勝宣言した時にはどよめいたけど、自己紹介が終わると拍手してくれた。
チームの一人として認められたみたいで嬉しかった。