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第26話選考合宿

6月、本来なら梅雨の時期だが空はからっと晴れている。


今日の試合はいつもの試合とは違う。


いつもの緑のシャツと黒のパンツではなく、青のシャツと白のシャツ一一一日本代表のユニフォームを着てロッカールームにいる。


何故代表のユニフォームを着ているのか、それはU−18代表に選ばれ、日本協会が主催する大会に挑もうとしてるからだ。




ちょうど2週間前、Jリーグが代表戦のからみで中断した。


東京は草津に3−2で勝った後、直後の熊本戦では引き分けたが、その後3連勝で中断期間を迎えた。


リーグ中断直後、チームに日本協会から一本の電話があった。


俺とマイケル、ユース所属の藤代がU−18代表候補に選ばれた、という内容だった。


急いで荷物をまとめ、翌日、選手選考が行われる合宿場に新幹線で移動した。


ここで最後の選考を行い、JFAユースカップという大会に出場する18名を選ぶことになる。


今回は66名と異例の大人数が代表候補に選ばれたため、俺がどの位置にいるか全くわからない。


合宿場の最寄りの駅に着くと、J2で戦った媛風や大槻がいた。


「あんさんも選ばれたんやな、こりゃ手強そうや」


「今回はきちんとフォワード登録だな」


草津戦以降、スタメンは1度もなかったが、途中出場で左サイドハーフとしても起用されるようになった。


ただ、今回の招集ではフォワードとして呼ばれている。


「まぁ、俺としてはお前とポジション争いしたくないし、構わないんだけどね」


大槻がそう言って宿舎のドアを開けると、ロビーに関東から来た選手は、ほぼ全員集まっていた。


どうやら関東圏の選手では俺、マイケル、大槻の3人が最後みたいだ。


ロビーで一旦別れた。


そこには水戸の片岡や山口、高校選手権で戦った鹿島の諏訪、そして懐かしい男がもう一人いた。


「山原、お前も選ばれたんだな」


山原はJFLのTAKADA.S.Cで1年目から左サイドバックのレギュラーを勝ち取った。


「姫に聞かなかったか?」


「何も言ってなかったけど。雑誌を送ってくれただけだし」


「亀山にしか眼中にないしな、姫は」


山原が苦笑いをする。


「何バカなこと言ってんだよ」


「気付いてるくせに。いつまでもごまかせないよ、自分も他人も」


山原がそう言った時、再びドアが開く。


飛行機で来た選手達がやって来たらしい。


20人以上の選手達が入って来た。


そして、コーチの田坂昌彦たさかまさひこさんが手を叩き、口を開いた。


「諸君、代表候補選出おめでとう。君達は今、代表の座に手をかけている。ここからはい上がるのは君達自身だ。健闘を祈る」


その後、これからについて説明された。


今日は監督はイタリアに視察をしに行ったらしく不在で、今は不在の本格的な練習は天気が悪く、飛行機が飛ばなかった九州、沖縄の選手達が参加する明日から行われるらしい。


今日は皆のスピードやスタミナなどを計るらしい。


早速着替えて、計測を行うことになった。




計測が終わると、その日の練習は終わり、自由時間となる。


自由時間といっても、合宿場の中はとくにこれといって珍しい物はなく、結果、初めて出会った人達と部屋に居続けることになるのかも知れない。


部屋割りが発表された。


俺は広島イーリスのサイドハーフの木村篤也きむらあつや、東京シュトルツの攻撃的ミットフィルダー宝田佳剛たからだけいごと相部屋になる。


「久しぶりだなぁ、亀山ぁ。同じ部屋だなぁ」


「そうだな」


宝田が俺の肩を叩く。


1年生の時は東新のゲームメイカーとしてプレーした宝田は去年、駒坂との試合で決勝点を呼び込んだFKを蹴った奴だ。


かなり人懐っこく、試合終了後、いきなり話しかけてきた記憶がある。


木村篤也とは会ったことはないが、17歳で広島ユースからプロ契約したことや今年、J1復帰した広島のスーパーサブとして活躍していることはニュースで知っている。


目が合ったが、すぐに視線をそらされた。




部屋に入ると、二人は荷物を置いて部屋から出て行った。


俺は姫花流から送られて来た雑誌を読むことにした。


姫花流が付箋を貼ったページを開くと、久永充ひさながみつる監督のインタビューが載っていた。


一一一今回は66名と異例の大人数の選手を招集しましたが?


「今回呼んだ選手はJFAユース大会だけじゃなく、10月のU−18W杯予選にも起用して行く予定です。そのため、今現在、自分の日本代表の構想にある選手全員を呼びました」


一一一ということは、今回の合宿で選抜された18名で予選を戦う、ということですか?


「怪我やスランプ等もありますが、おそらくそうなるでしょう。勿論、亀山や前田のように、なんらかのきっかけで急成長する選手もいるでしょうから、そういった選手達も考慮しますが」


俺の名前が出て来た。


姫花流はそれを知っててこの雑誌をくれたのかも知れない。


再び雑誌を読む。


一一一今回、高校生が6名選出されていますが、この意図は?


「私の構想に入っている選手です。もちろん、JFAユースカップのメンバーに選ぶ可能性もあります」


一一一海外所属の選手を招集したのも、同じ理由でしょうか?


「はい。日本にいる選手と異なり、生で見る機会が非常に限られて来るので、海外にいる選手には、こういう場で力を発揮して欲しいです」


まだインタビューは続いていたが、とりあえず雑誌を閉じた。


海外から来る選手、がいるらしい。


ドアが開く音がして、山原が入って来た。


「ノックぐらいしろよ」


「お前しかいないって宝田言ってたけど」


「お前らの部屋にいるのか?」


「諏訪の所に来たみたいだったけど。覚えてるだろ、諏訪」


「忘れるわけないだろ」


「あいつ殆ど話さないから間がもたないんだよ」


「二人しかいないのか?」


「ああ、竹ノ内っていう選手が明日イタリアから来るらしいけどな」


「外国から‥‥か。他にどんな選手が来てる?」


「姫が渡した雑誌に書いてあると思うけど」


そう言って山原は俺の脇にあった雑誌を手に取って開く。


「ほら、ここ」


山原が指差したページに、代表候補の一覧が会った。


「ゴールキーパーに2人、ディフェンダーに3人、だな」


「フォワードはいないのか」


ホッとした。


「でも、だからといって簡単なわけじゃないからね。フォワードの得点力不足は日本の課題だけど、良いフォワードがいないわけじゃないんだから」


「そんなことわかってるさ」


「どうだか」


山原はそう言って雑誌を投げた。


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