第25話草津戦決着
後半が始まった。
相手は開始直後から勝ち越しを狙って一気に攻めて来る。
東京はひたすら耐える戦いを強いられる。
相手右サイドバックのネリーノが天野さんからボールを奪う。
ボールを持った瞬間、ネリーノが一気にスピードを上げ、右サイドを駆け上がる
杉本さんを抜き、サイドチェンジをしてくる。
大槻と俺が同時に走り出すが、振り切られた。
大槻がフリーでセンタリングを上げる。
モラリスと淳敏が競り合い、淳敏が競り勝って、草津のコーナーキックになる。
先制点の時と同じように後藤がボールをセットする。
鋭いボールがエリア内に入る。
淳敏とモラリスが競り合い、モラリスがヘディングでシュートした。
シュートは山下さんが弾いたが、犬飼さんのマークを外した郭が弾いたボールを右足のボレーを決められた。
2−1、ついに草津に勝ち越される。
東京は失点直後に川村さんに代えて田原さんを投入する。
右サイドバックに李さんが、攻撃的ミットフィルダーに田原さんが入る。
中盤を菱形にして攻撃に移る。
草津は1点をリードしたことでプレーが消極的になって、さっきまでとは真逆の展開になる。
李さんが強引にボールを奪い、右サイドを駆け上がる。
李さんのロングボールをフラビオが受け取り、フェイントを入れて相手ディフェンダーを抜いた。
ゴールキーパーの小島と1対1のチャンスになったが、シュートは小島に右手一本で防がれた。
こぼれ球はクリアされたが、クリアボールを杉本さんが拾い、センタリングを上げる。
ボールはフラビオの頭をかすめ、ゴールラインを割った。
チャンスを作り出してはいるが決め切れない。
後藤から大槻にパスが出た。
今日何度も見た光景が、再び繰り返される。
大槻がドリブルしてくる瞬間、第4の審判が電光ボードを持って、野村さんと共にベンチから出て来るのが見えた。
交代するのは俺ではないか‥‥?
大槻がつっかけて来た。
俺の左側、サイドラインぎりぎりから突破しようとする。
ファウルはもちろん、ラインを割ればゲームが中断し、交代になる。
それでも、せめて大槻がコントロールミスしてボールをラインの外にこぼすように、足を出した。
すると、ボールは俺の足におさまり、大槻はボールにつんのめった。
前に広大なスペースが出来た。
一気にドリブルで駆け上がるが大槻が追いつかれる。
伸ばした大槻の足が、俺の足に引っ掛かった。
倒れかけたが、なんとか堪えた。
ボールをすぐに拾い、一気に走る。
前から郭が詰めて来た。
郭を抜けばペナルティーエリア内に入れるが、奪われるとカウンターになる。
エリア内にはフラビオと天野さんがいた。
フラビオに向けてセンタリングを上げた。
草津ディフェンダーに競り勝ってフラビオがヘディングシュートを狙ったが小島が横っ飛びで弾く。
そのこぼれ球はライン上を転がっている。
そのままならコーナーキックになるところだ。
普通ならそのままにしておくだろう。
だけど、この時の俺は違った。
ボールめがけて走った。
郭も大槻もついてこれない。
ほとんど角度のないところからシュートを打つ。
シュートは小島の脇を抜け、ゴールポストに当たってゴールの中に入った。
2−2、同点になる。
ネットに絡まったボールを持って走る。
走ってる途中、主審が交代を告げた。
野村さんに代わってピッチを去るのは俺ではなく、淳敏だった。
李さんがセンターバックに入り、杉本さんがサイドバックに、野村さんが右サイドハーフの位置に入る。
一試合の間にころころポジションが変わるのは東京の特徴だ。
同点に追い付いたことで逆転へのムードが高まり、サポーターの応援も熱が入る。
イケイケムードに水を差すものは何もない。
しかし、なかなか逆転弾は生まれない。
試合の残り時間が5分を過ぎたところで天野さんに代えてマイケルを投入した。
自然とマイケルにボールが集まる。
マイケルは何度も自分で仕掛けるが、相手ディフェンダーにことごとく読まれる。
第4の審判が電光ボードを出す。
ロスタイムは2分だ。
ブエゴがヘディングでクリアしたボールを李さんが拾い、俺にパスする。
おそらくこの試合最後になるであろう大槻との1対1に挑む。
大槻の右から抜きにかかるが、大槻がしっかりついて来る。
一度止まってから中に入って行く。
タイミングを外すされた大槻が一か八か、足を出してボールを奪いに来る。
その瞬間、大槻の左側にボールを出してドリブルを始める。
完璧に抜いたが大槻は再び追いかける。
前には郭が待ち構えている。
犬飼さんが後ろからカバーに走ってくれる。
大槻はスピードを落とし、俺のマークを捨て犬飼さんをマークするようだ。
郭は俺との間を詰めないところを見ると、まだセンタリングはないと思っているようだ。
向きを変え、センタリングを入れようとすると、右側から大槻にボールを奪われた。
大槻は犬飼さんのマークについたわけではなかった。
ボールは郭の方に転がって行く。
そのままダイレクトでクリアしようと右足を振り上げる。
考えるより先に、体はクリアされそうなボールに向けて走っていた。
郭の蹴ったボールは俺に当たり、大きく跳ね返った。
無我夢中にボールを追いかける。
後ろから来た大槻より先にボールをキープする。
大槻がレッドカード覚悟でスライディングをしかけてくる。
スライディングをかわさず、犬飼さんにパスを出す。
審判はアドバンテージをとる。
犬飼さんがセンタリングを上げた。
ボールは相手ディフェンダーに当たり、転がる。
立ち上がってボールを追いかける。
才能のない俺が認められた、ボールへの執着心。
これだけは、譲れなかった。
大槻がユニフォームを掴んで来たが片手で振り払った。
マイケルに向けてセンタリングを上げる。
相手ディフェンダーに競り勝ち、走り込んできた田原さんに落とした。
ダイレクトシュートはゴール右隅に決まった。
ネットが勢いよく揺れる。
3−2、ついにこの試合初めてリードした。
そして直後に試合終了の笛が鳴る。
仙台に引き分けてから続いていた未勝利記録を止め、久々の勝ち点3を手に入れた。