第24話草津戦前半
草津はボールを持つと一気に攻めてくる。
相手がこの試合1本目のシュートを放つのに1分もかからなかった。
試合は草津ペースで進むが、ゴールキーパーの山下さんを中心に守備陣が耐える。
即興に見える4バックの布陣もかなり安定していて、シュートを打たせることは少ないが、なかなかボールが保持出来ない。
しばらくしてブエゴのクリアが俺の前に落ちた。
ボールを拾い、ドリブルでサイドを駆け上がる。
サイドハーフの大槻と1対1になる。
ワンツーパスで大槻を抜こうと守備的ミッドフィルダーの鳳さんに横パスを出した。
が、大槻はぴったりと俺について来て鳳さんがパスを出せず、鳳さんは前線にロングパスを出すが、味方に合わずにゴールキックになる。
大槻をなんとかしなければ今日の試合で活躍出来そうにない。
杉本さんのセンタリングを秋葉がヘディングでクリア、後藤にボールが渡り、前線にロングパスを出す。
モラリスが頭で落とし、相手フォワードがシュートを放つ。
山下さんがかろうじて手に当ててコーナーキックになる。
エリア内に人が集まり、一人一人がマークにつく。
俺は大槻のマークについた。
キッカーの後藤が蹴ったボールは大槻に向かっていた。
競り合いは大槻に軍配があがり、ヘディングで合わせられた。
大槻のシュートはバーに当たったが、跳ね返った球をモラリスに押し込まれた。
俺のせいで先制点を与えてしまったが、落ち込んでいる暇はない。
すぐに切り替えて、同点を狙う。
するとすぐに鳳さんが俺にパスをくれた。
再び大槻と1対1になる。
今度はパスではなく、ドリブルを選択すし、大槻の左側、サイドラインぎりぎりで抜けた。
しかし、すぐに大槻が追い付いて来た。
足の速さより判断が速いプレーヤーだ。
前からは郭が詰めて来る。
天野さんはまだゴールが狙えそうにないところにいるし、フラビオはマークを外しきれていない。
一つの賭けに出た。
ゴールの方に向き、ドリブルする。
大槻が後ろから追い縋る。
郭も足をボールの方に出す。
その瞬間にボールを左の誰もいないスペースに出す。
全速力で犬飼さんが走って来た。
犬飼さんがダイレクトでセンタリングを上げた。
精度は悪かったが、フラビオがヘディングで合わせ、ボールはゴール左隅に収まった。
1−1、失点直後に同点にした。
フラビオの周りで歓喜の輪が出来る。
犬飼さんに頭を叩かれた。
犬飼さんに賭け、見事に成功した。
さっきの失点のミスは取り返せた。
試合が再開される。
同点に追い付かれた草津の反撃が始まった。
相手の両サイドの選手を中心に攻めて来るからどうしても、サイドで守る時間が長くなってしまう。
なんとかインターセプトしようとしても、相手が速過ぎて自由にさせないだけでいっぱいいっぱいだ。
たまにボールをもってもフォワードが下がり過ぎていい攻めに繋がらない。
何とか失点せずに前半が終わったが、すでに敗戦ムードがただよっていた。
ロッカールームに戻り、監督が後半の指示を出す。
「1−1か‥‥まぁ悪くはない。劣勢だが相手は必ずどこかで息切れを起こす。必ず足が止まる時間帯がある。そこをつけ。そして決して引くな。今日のメンバーは攻撃的に行くことを前提にしたメンバーだ。全員が前への意識を持て」
全員への指示は終わる。
監督はその後、個別に話し始めた。
俺にも声をかけて来た。
「俺が今日、お前に何を求めているか分かるか?」
「サイドを走り回って、どんなボールでも諦めないでしぶとく自分の物にすること‥です」
俺の持ち味であるスタミナと諦めない心をサイドハーフでいかすならそれしかない。
「正解だ。相手の右サイドを蹂躙しろ、相手をかきまわせ」
監督がニヤリと笑う。
「はい、わかりました」