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第22話草津戦前夜

「走れ! サボるな! 足を止めるな!」


フィールドの外から監督の声が聞こえて来る。


個人名を出さないから誰のことを言っているのか、そもそも全員に言っているのか個人に言っているのかどうかさえわからない。


今日のミニゲームは相手も味方もサブ組が中心で、前節の甲府戦にスタメン出場した11人はミニゲームに参加せずにリカバーに専念している。


ゴールデンウィークの連戦で、スタメンはもちろん、俺も含めた控え組でさえも疲労している。


俺は開幕から全試合途中出場していて、4−4の打ち合いとなった甲府戦で1点決めたが、他の試合はノーゴールだ。


この甲府戦も含めて東京は仙台に引き分け、湘南に敗れた後、2戦連続引き分けと不調だ。


甲府戦後、草津戦はスタメン組の疲労を考え控え組と数人入れ替えると監督がマスコミに対して発言したため、控え組の選手のモチベーションは高い。


今日の練習後に草津戦の遠征メンバーを発表することになっているが、昨日試合をしたばかりだから今日の練習しだいで遠征メンバーが決まる。


従って今日の練習に熱が入る。


試合は11対11で行われ、足りないところは練習生やユースの選手をいれて補っている。


天野さんの弟の淳敏やユースのエースストライカーでU−17代表の藤代真ふじしろまこと等がプレーしている。


ファールぎりぎりのプレーをしてくる相手にもしっかり対応出来ているあたりは自分との経験の差を見せ付けられている感じがする。


監督が吹いた笛の音でミニゲームが終わり、草津戦の遠征メンバーが発表になる。


「明後日の草津戦の遠征メンバーを発表する」


この時はいつも緊張する。


「ゴールキーパー、山下、松本。ディフェンダー、宮原、天野淳敏、ミッドフィルダー、李、ブエゴ、野村、杉本、田原、鳳、犬飼、川村、フォワード、フラビオ、天野浩司、亀山、マイケル。」


マイケルとユース所属の淳敏が呼ばれた。


周りも驚いているが、呼ばれた本人である淳敏が一番驚いているようだ。


「すでに学校の了承は得てる。だいぶ難色示していたがな。まぁ以上のメンバーが遠征メンバーだ。スターティングメンバーは草津に行ってから発表する」




練習終了後、寮に帰り、月美さんの作った晩飯を食べて自分の部屋に戻った。


食事中、いつも元気な植森がすこし元気なさげに見えたのは今回の遠征メンバーに漏れたからだろう。


今回はピサロが累積で出場停止だった上に角田さん、新垣さんも選ばれなかったのに植森でなく淳敏が選ばれた。


かなりショックのはずだ。


本当ならフォローしてやるべきかも知れないが、今回は自分のことで頭がいっぱいだ。


練習終了後、監督に呼ばれ、こんなことを聞かれた。


「草津戦、左サイドハーフ、出来るか?」


「出来ます、やらせて下さい」


もちろん嘘だ、一回もやったことなんかないし出来る気がしない。


しかし出来ると答えた以上、左サイドハーフで出番が来るだろう。


まずったな‥‥




草津に着き、軽目の練習を終え、スタメン発表になる。


「ゴールキーパー、山下。右サイドバック、川村、センターバック、ブエゴ、天野淳敏、左サイドバック、犬飼。右サイドハーフ、杉本、守備的ミッドフィルダー、鳳、李、左サイドハーフ、亀山。フォワード、フラビオ、天野浩司。リザーブは松本、宮原、野村、田原、マイケル」


まさか初スタメンが左サイドハーフになってしまうなんて‥‥


大変なことになってしまった‥‥




とりあえず野村さんに左サイドハーフについて聞くことにした。


ホテルで夕食を食べた後、野村さんの部屋に入れてもらった。


「左サイドハーフのやり方?」


「はい、どうやってやるのかなって」


「前日に聞くことじゃないだろ」


「すいません‥」


「まっレクチャーしてやる。耳かっぽじって聞いとけよ」


「はい」


「サイドハーフとフォワードの違いはサイドハーフの方がプレッシャーを受けにくいってことと位置が低いってことだ。だからフォワードよりボールを保持しやすく、攻撃の組み立てもしやすい。だけど位置が低いからドリブルで進む距離が長い。後は守備面での負担が大きいな。基本的には1対1だし。ま、後はなんとかなるだろ」


「分かりました。ありがとうございました」


俺が部屋から出ようとすると、野村さんが呼び止めた。


「一つ忘れてた‥‥ポジションはどこであってもサッカーはサッカーだから。お前の持ち味を出さなきゃ意味ないからな」


俺の‥‥持ち味‥‥


「ま、お前に出来る事をやれ」


「はい、分かりました」




自分の部屋に戻った。


部屋では淳敏とマイケルがサッカーゲームをしている。


一試合終わったらしく、マイケルが誘ってきたが断った。


明日は二人共初のJリーグの試合になるのに緊張のかけらもない。


「なぁマイケル」


「なんだよ」


マイケルがテレビ画面を向いたまま答える。


もう一度試合をするらしい。


「俺の持ち味って何?」


マイケルはゲームを止め、考え始めた。


「持ち味って言っても‥‥テクニックは並だし、足はまぁまぁだし、フィジカルは弱いし、身長も並だし、頭も良くないし、顔も‥‥」


「最後の関係ないだろ」


「まぁ、あれだな。スタミナと諦めない心だろ」


「スタミナと諦めない心‥‥」


それを生かすことが、明日、やるべきこと‥‥


やることが決まった。



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