第21話平凡な休日?
今回の話は途中から亀山目線から月美目線に変わります。
試合終了のホイッスルがなる。
今日の仙台戦は前半、伊達のパスからフォワードのバロンと守備的ミッドフィルダーの加藤孝に決められ、2点ビハインドを背負ったが、後半から出場した俺のスルーパスからフラビオが決めて1点返し、後半ロスタイムに相手のパスをインターセプトした杉本さんがサイドチェンジ、途中出場した川村さんが一気にドリブルで進んで、センタリングを俺がヘディングシュート、相手ゴールキーパーの弾いたボールをフラビオが押し込んで2−2の同点で試合を終えた。
開幕戦からすでに6試合を終え、東京ミストラルは5勝1分けで全勝の湘南に続き2位に位置している。
俺自身も開幕戦から全ての試合に途中出場、大阪戦と仙台戦は後半開始と同時に投入され、152分間出場して2得点2アシストを決めた。
だが、リザーブ外のマイケルもサテライトでゴールを量産してアピールしている。
マスコミは「各ポジションの厳しいスタメン争いが今の順位に繋がっている」と報道する。
ゴールキーパーは山下さんがスタメンだがリザーブの松本さんが出場の機会を虎視眈々と窺っていて、ディフェンダーにはレギュラーの3人に加え新垣さんと植森が鎬を削り、守備的ミッドフィルダー、攻撃的ミッドフィルダーには現在のレギュラーのリザーブには鳳さんがいるうえ守備的ミッドフィルダーは新垣さんが、攻撃的ミッドフィルダーは天野さんがプレー可能、サイドハーフには右は杉本さん、左には野村さんがレギュラーだが犬飼さん、川村さんが控え、フォワードにはフラビオ、天野さん、俺、マイケルがレギュラーを争っている。
バスがクラブハウスに到着、試合後はいつもそこから天野さんの車に送ってもらっている。
ほぼ同時期にマイケルと植森と俺で教習所に通い始めたが、時間のない俺が一番免許取得に時間がかかりそうで、しばらくは天野さんのお世話になりそうだ。
寮に着くと月美さんが待っていた。
「お帰りなさい! もう、勝たなきゃ駄目だよ!」
「無理言わんといてよ」
天野さんは相手が誰だろうとタメ口だ。
「李しか帰って来てないけど、他の二人は?」
今日の試合は俺、天野さん、杉本さん、李さんが試合に出て松本さんがリザーブだった。
「知らないけど、恋人のところじゃない?」
「そっか‥ご飯どうしよう?」
「多分大丈夫でしょ」
月美さんと天野さんが会話を続ける。
俺は自分の部屋に戻った。
部屋に戻るとベットの上に投げてあったなんだかんだで購入した携帯のランプが光っている。
携帯を持ち上げ、ディスプレイを見ると姫花流からのメールだった。
姫花流は毎試合終わると叱咤激励メールをくれるが、ありがたいけど正直イラっとすることもある。
今回も試合での課題をいちいち書いてある。
メールを見終えた携帯を机に置きベットに横になった。
部屋の窓から太陽の光が入って来る
いつの間にか寝ていたみたいだ。
何故か腹部に重みを感じた。
目を開くと月美さんの顔がアップで目の前にあった。
「〜〜〜〜ッ!」
悲鳴にならない悲鳴が俺の口から発せられた。
「何やってんですか!」
「何って‥‥夜ばい?」
「もう夜じゃないし! ってかどいて下さい!」
「え〜いいじゃん」
「いいわけないでしょうが!」
「だって亀山ぬくぬくだもん」
そう言いながら月美さんが布団の中に入って来た。
「ちょっと! 出て下さい!」
「やだ」
月美さんが見た目よりもはるかに強い力で腕を掴む。
「離して下さい!」
「やだ」
月美さんが腕を掴んだまま俺の耳元まで顔を近づけて来た。
「ダメ‥?」
その表情にドキっとする。
「ダメって言うか‥」
その時、酒の匂いがした。
「月美さん‥‥酔ってます?」
「フフン」
返事になってねぇよ、と心の中でツッコミを入れる。
「亀山、いる?」
ドアの外から植森の声がした。
「おじゃまします」
「バカ、入るな!」
俺の制止は一歩遅く、植森がドアを開けてしまった。
「‥おじゃましました」
植森がドアを閉めようとする。
「違う、誤解だ!」
「で、こうなったと‥‥」
その後なんとかベットから抜け出して、植森に訳を話した。
月美さんは俺のベットでぐっすり寝ている。
「鍵くらい閉めておけばいいのに‥」
「え、俺のせい!?」
「冗談だよ‥‥黙ってると可愛いのにね、この人」
植森が月美さんの顔を覗き込みぺたぺた触ったりいじったりしている。
「いいのかよ、そんなこと言って」
「どうせわかんないんだからべつにいいでしょ。」
「お兄ちゃん‥」
植森がびくっとしたが、月美さんはすやすや寝ていて目を覚ます様子はない。
「なんだ‥寝言か‥‥びっくりした」
「びくびくするぐらいなら最初から言うなよ‥」
「お兄ちゃんって宮原さんのことだよな」
「この人も宮原さんだけどね」
俺も月美さんの顔を覗き込む。
確かに寝顔は可愛い。
「結婚とかしないのかな‥適齢期過ぎるのに‥‥あ、柔らかい」
植森が頬を突きながら急にそんな話をし始めた。
「そういうこと言うのやめとけ」
「事実だろ? この人もう26だし」
「なんで知ってるんだよ」
「初めてここに来た時天野さんが言ってた。あとブラコンだって。でも本人に言うと殴られるから気をつけてね」
「そんなことわざわざ言わないよ」
さらに植森が月美さんの顔をいじっていたが、寝返りをうってしまったからかやめた。
「で、何しに来たんだよ」
「ああ、教習所行かない?」
「行こうと思ってたけど‥これじゃいけないでしょ」
「置き手紙とかしとけば大丈夫でしょ、行こうよ」
「うーん‥‥分かった」
一一一ここからは月美視点です一一一
目を開けると、自分の部屋ではない部屋にいた。
頭がガンガンする。
昨日飲み過ぎたかな‥‥
起き上がって机を見ると亀山からの置き手紙があった。
いつの間にか亀山の部屋にいたみたい。
後で謝らなきゃな‥‥
隣に亀山がいたから、あんな懐かしい夢を見たのかな‥?
懐かしい夢‥‥
お兄ちゃんとの初めての思い出‥‥
「もう一回‥見られるかな‥‥」
ずっと見てたい夢。
でもそれは夢でしかなくて。
いつかは現実に引き戻される。
それでも一一一
「もう一回寝よ」
その夢に縋り付くしか、私には方法がなかった。