第20話卒業式
開幕戦の四日後、駒坂高校の卒業式が行われた。
一ヶ月半ぶりの校舎はかなり新鮮だった。
教室に入ると同級生に囲まれた。
「ちょっと亀山、凄いじゃん!」
誰かに肩を叩かれる。
机の上にはスポーツ新聞が置いてある。
開幕戦の試合は昇格候補の大阪が劇的な逆転負けをくらった試合だったからか深夜のスポーツニュースやスポーツ新聞で取り上げられた。
2点取った俺のことも書かれていた。
「大活躍だったんだね」
今まで話した事のないような人まで話し掛けて来る。
「たまたまだよ」
「よ、有名人」
山原が新聞を持ってこちらに来た。
「久しぶり、山原」
山原から新聞をひったくって東京ミストラルの記事を読む。
俺のコメントが載っていた。
『全得点に絡んだ亀山「体のキレが最高でしたし、味方がうまく走ってくれました」』
こんな事言ってたなんて忘れてた。
必死にあの日のことを思い出す。
一一一まずは2得点、おめでとうございます。
「ありがとうございます」
一一一チームも勝利しました。亀山選手が入ってから流れが変わりましたが何か意識したことは
「別に何も‥‥流れが変わったのは監督のおかげです、多分」
一一一交代の際、どんな指示を受けましたか?
「特別な指示はなにも‥‥ただ俺達の相手は主審じゃないとは言われました」
一一一それは誤審にめげるなと?
「多分そうだと思いますけど。前半はみんなかなりイラついてたんで」
一一一前半の失点は微妙な判定からのセットプレーからでした。
「前半出てないので‥‥誤審かどうかは分かりません」
一一一最後のFKも誤審に見えましたが
「犬飼さんに聞いて下さい」
一一一2得点取ったことで今後注目されるのでは?
「でしょうね、今インタビューされてますから」
一一一フラビオ選手のゴールを演出しましたが自分で打とうとは思いませんでしたか?
「ゴールが見えなかったので、フラビオを信じました」
一一一自身1点目は見事なドリブルから2点目は泥臭いゴールでしたが、どちらを評価してもらいたいですか?
「2点目はね‥‥当たっただけですから。もっと気持ち良く逆転したかったって言うのが正直な気持ちです。でもどちらもゴールですからどっちも評価してもらいたいです」
新聞に載っていたコメントを言った覚えがない。
必死に思い出していると、姫花流が話しかけてきた。
「おめでと、俊!」
「ありがと」
「ってかメンバーに入ったならちゃんと言いなさいよ!」
「姫めっちゃ応援してたからね」
「見に来てたの?」
「試合に出るかどうか聞いてないのに大阪まで行くわけないじゃん、テレビでだよ」
出るかどうかわからないのに試合見てたのか、こいつら。
「サッカー部のみんなで小山先生の家で見てたんだよ」
「小山先生お前の試合見るためわざわざJ2の試合見れるようにしたんだってさ」
「マジで?」
「ちゃんと期待に応えなさいよ」
「ああ‥‥」
ガラッと教室の扉が開く。
卒業式が始まる。
卒業式は校長やなんか偉い人の長い話や卒業証書授与が行われた。
卒業式を終え、何人も泣いている中、高校生活最後の終業チャイムが鳴る。
最後に姫花流と山原と一緒に歩いて帰る約束をしていた。
帰ろうとしたらクラスメイトに色紙を渡され、連絡先を教えたりと色々と話をした。
山原と姫花流を見失ってしまった。
とりあえず玄関に行くとサッカー部の後輩達が待っていた。
寄せ書きしたボールを貰う。
後輩達と別れ、玄関を出ると山原と姫花流が既に待っていた。
「おっそいよ!」
「知名度が急激にあがったね」
「こんなにアドレスが増えるとは思わなかった」
苦笑いするしかない。
「‥‥携帯持ってないよね」
「うん」
「意味ないじゃん!」
「‥‥あ」
「気付くの遅っ!」
「ってか買おうよ携帯くらい‥‥」
「お金が‥‥」
「プロなのに? 契約金とかないの?」
「それは野球だろ‥‥サッカーは支度金っつうんだよ。野球より安いしな」
「へー」
「で、お金ないの?」
姫花流に聞かれた。
「あるよ、携帯買うくらいなら。でも無駄遣いしたくないだけ」
「無駄って‥‥」
「サッカー選手はあんまり稼げないからね、どうせ亀山年俸安いだろうし」
山原が言う。
「うるせぇ」
「早く稼げるようになって一人立ちしてね」
「してるわ!」
姫花流と山原が笑った。
「やっぱ変わんないね、俊」
姫花流がいきなりそんなことを言い出した。
「なんで?」
「プロになって遠くにいる人みたいになっちゃったと思ってたけど‥‥いつもの俊だよ」
姫花流が微笑む。
「当たり前だろ、遠くになんか行かない、ずっとここにいるよ」
姫花流に微笑み返してやった。
「俊‥‥ありがと!」
姫花流が笑う。
「愛の告白?」
山原が茶化す。
「ちょ、山原!」
「そ、そんなんじゃねーよ!」
二人で同時に否定した。
「素直になればいいのに」
「うっさい!」
山原はそう言った瞬間に姫花流に腹を蹴られた。
「ぐふぉ!」
「あんたは一言余計なの!」
「じゃ最初のは余計じゃないんだ」
山原はそう言って蹴られないように逃げる。
「待ちなさい!」
「待つかー! 暴力姫!」
「あんたのせいでしょー!」
こいつらも変わることはないんだろう。
いつまでも馬鹿なこと言ったり、からかいあったりして、たまには喧嘩して、最後には仲直りして歳とって行くんだろう。
そんなこと考えながら走っている二人を追い掛けた。