第2話入団会見
北條さんに東京ミストラルに入団すると話し、二週間が経った。
今日は東京ミストラルの入団会見の日。俺が俺以外の入団選手や監督に初めて会う日でもある。
会見はクラブハウスで行われるため、俺もスーツを着て初めてクラブハウスに来た。
「おじゃましまーす‥‥」
中には誰もいなかった。
「他人の家じゃないんだから‥‥」
後ろから声をかけてきたのはスーツを着た190センチぐらいありそうな金髪で短髪、青目の外人っぽい男。
「どなたですか?」
「今日から東京ミストラルに入団するマイケル・仁・ジェームスだ。マイケルでいいぜ、亀山」
「なんで俺の名前を?」
「会ったことあるんだけどな。選手権の抽選会と開会式で」
そういえば京都の尊能学園に一人でかい外人っぽい奴がいた気がする。
でもその時は長髪だったはずだ。
マイケルにそのことを聞くと、「プロ入った記念にやってみた」と言われた。
「それよりさっさと中入ろうぜ‥‥玄関は寒い」
俺はそのままマイケルに連れて行かれた。
マイケルに連れて行かれた部屋でクラブスタッフに会う。
「ジェームス・仁・マイケルと亀山俊彦だな? 選手の控室は隣、後このユニフォームをスーツの下に着ておいて」
神谷さんに渡されたのは俺の名前が入った背番号28の東京ミストラルのユニフォームだ。
上は緑一色、下は黒一色であちこちにスポンサー名が入っている。
胸のエンブレムの上についている五つの星がこのチームの過去の凄さを表している。
少し感動してウルっときた。
「じゃ、行こうぜ亀山」
マイケルはユニフォームを肩にかけて部屋を出て行った。
隣の部屋には既に三人選手が来ていた。
二人は全く見たことない選手だったけど、一人は見たことのある選手だった。
小柄で童顔、長い茶髪を後ろで束ねる髪型。
「水種高校の2番‥‥」
水種高校は俺達駒坂高校が選手権大会の一回戦で戦ったチーム。
守備が固く、後半ロスタイムに一点取って何とか1−0で勝った。
こいつはその守備の中心人物だ。
「植森博之だよ、駒坂の13番」
13番は俺の駒坂時代の背番号。
「俺は亀山俊彦、こっちは‥」
「マイケル・仁・ジェームスだ。マイケルでいいぜ」
「よろしく、亀山、マイケル」
残りの二人もこっちに近付いて来た。
「俺にもこれくらいの時が〜」
「まだ四年前でしょ、大袈裟。俺は公清大学の松本良明、こっちは光破大学の犬飼茂雄、よろしく」
公清大学も光破大学も関東大学リーグ1部のチームだ。
「よろしくお願いします」
三人声揃えて一斉に言った。
その時、ドアが開いた。
「盛り上がってんな、若者」
ドアの外から入って来たのは今年アンフィニ清水から移籍してきた元日本代表の攻撃的ミッドフィルダー、田原久敬さんだ。
さすがに元日本代表だけあって、オーラが違う。
今までTVの中でしか見たことのないプロ選手と明日から練習すると思うと、不思議な気分になる。
田原さんを加えた6人で話していると、「会見始めるんで、集まって下さい」とスタッフの人に呼ばれ、外に出た。
なんかだんだん緊張してきた。
「緊張してんの?」
植森に聞かれた。
何で分かったのだろう?
「同じほうの手足出てるもの」
確かにその通りだった。
「安心しとけって‥‥注目されてるのは田原さんだけだから」
「そうなの?」
「当たり前だろ」
そこまで言って植森は声を小さくして、
「解雇されたとはいえ、元日本代表だからね。他の無名な選手なんて注目されないよ」
それはそれで悲しい気がする。
「それでは会見を始めます」
会見は一人一人が自己紹介をしていく方式らしい。俺は三番目だった。
一番目は植森。
「植森博之、水種高校出身のセンターバックです。武器はスピードです」
二番目はマイケル
「尊能学園のフォワード、マイケル・仁・ジェームスです。ヘディングが得意なんで競り合いを見て欲しいです」
そして、俺の番が来た。
緊張で足が震える。
「駒坂高校出身、フォワードの亀山俊彦です」
そこまで言って気付いた。
俺の特徴って何だろう?
「‥‥絶対に諦めないところが長所です」
とりあえず、いつも姫花流や山原に言われてることを言ってみた。
その後の三人が言い終わると、司会が今年の抱負を聞かれた。
一人目の植森は、
「とりあえず今年試合に出ることです」
二人目のマイケルは、
「5ゴール決めます」
俺の番になった。
「木村選手、今年の抱負は?」
「‥‥J1優勝の基礎を作る年にしたいです」
俺がそう言うと会場がざわめいた。
その後四、五人目が終わり、最後の田原さんの番になった。
「田原選手、今年の抱負は?」
「このチームをJ1に上げて、最後の花を咲かせたいと思います。」
また会場がざわめいた。
その後監督の話があり、会見が終わった。
会見が終わり、席を立つと、眼鏡を掛けた身長の高い長い茶髪の女性の記者にぶつかった。
「あいたたた‥‥」
そういいながら落ちた眼鏡を探していた。
「すいません、大丈夫ですか?」
俺は眼鏡を拾い、渡した。
「あ、ありがとうございます! 大丈夫ですよ! 私、高城蒼波っていいます! よろしくお願いします!」
そういって眼鏡を掛けると、礼をして走ってった。
「いい女だね〜」
後ろで犬飼さんが言った。
「犬飼、不謹慎だよ」
松本さんが注意すれと、ほ〜いと言って控室に戻った。
「どこ行ってたんだ高城」
「すいません、杉内さん」
「ったく」
「亀山選手に会って‥」
「あの謎の男か」
「謎の男?」
「ストライカーのマイケルやスピードのある植森と違って特徴があるわけでないし松本や犬飼みたく実績もないんだよ。なんでプロになれたのか‥‥」
「それで謎の男」
「そゆこと。まぁいつかわかるだろうがな」
「ったくお前もとんでもないこと言うよな」
控室に入った俺に植森が言ってきた。
「なにが?」
「J1優勝だよ、J1昇格出来るかわからないのに‥」
「でも元J1だろ? 名門なんだから‥‥」
「今年は間違いなく優勝候補からもれてるぜ、東京は」
マイケルが口を挟む。
「なんでさ? 去年の主力が移籍したからか?」
「まぁそれもあるが‥‥J2はお前の思ってるより手ごわいぜ」
マイケルがそう言うと植森が続く。
「今年の優勝候補は、去年東京と一緒に降格した札幌、去年J1昇格を逃した仙台、大阪、湘南、鳥栖、甲府の5チームって言われてる」
植森がそこまで言うと今度はマイケルが喋る。
「札幌リュミエールは去年は負傷者続出してJ2降格したけど、『鉄のカーテン』と呼ばれる固い守備に加え今年はブラジルのリーグの2部で得点王になった選手を獲得し攻撃力もUPさせたぜ。
レンディル仙台は去年まであった入れ替え戦に泣き、J1昇格出来なかったが、今年は元オリンピック代表の岩野勇人、丘昇、U−20代表の伊達幹人ら主力を残留させ、さらにブラジル人選手を補強してチーム力は高いぜ。
アヴァランチ大阪は去年前評判は高かったが、低迷し、4位に終わった。だが、今年は既に日本代表に定着した御倉井司、元オリンピック代表の石田穂らに加えて元日本代表の宮本剛をアンフィニ清水から獲得してチームの層はさらに厚くなったぜ。
ヴェント湘南は去年のレギュラーメンバーからフォワードとセンターバックが移籍したけど、J最長196?のフォワード太田洋平や元ブラジル代表の選手もいる。今季は監督も代わって全く新しいチームになるぜ。
リノヴァティオ鳥栖は育成型チームのやり方を変えずに今季も行くみたいだな。だけど若手中心の攻撃陣は勢いがあるし、守備陣にはベテランが揃うバランスのいいチームだぜ。
アヴアンツァーレ甲府は4−1−2−3の攻撃なフォーメーションで挑むみたいだな。センターフォワードの真田和輝やセンターバックの武田滋喜らが破壊的な攻撃を演出するぜ」
「説明ありがと」
ほとんど頭に入ってないけど。
「でも不可能じゃないだろ?」
俺は植森に振ってみた。
「まぁ‥ね」
「ならどうせなら高い目標持っといたほうがいいだろ?」
「言うじゃないか、亀山」
今まで黙っていた田原さんがいきなり会話に参加してきた。
「俺もお前に乗るよ‥‥あと僅かなプロ人生、このチームの礎にするさ」
「田原さん‥‥」
「じゃあ俺達も〜」
「そのほうが楽しそうだし」
犬飼さんも松本さんも乗って来た。
「マイケル達は?」
「まぁ、俺達が活躍すればいつかはどのみちそうなるわけだから、別にいいぜ」
「じゃあ俺もその話に乗ろうかな。J1に居たほうがいいし」
「よし、決まりだな」
田原さんが俺と犬飼さんと肩を組む。
「円陣組め、円陣」
6人で円陣を組む。
「J1で、優勝するぞ!」
「オォー!」