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第14話 フラビオの過去

神戸戦の翌日は休み、その後清水さんが手術のために渡伊。


練習はフィジカルから戦術練習へと比重が変わっていった。


その後は柏と山形と練習試合をした。


2試合共敗戦し、俺は両試合とも1ゴールずつあげたが神戸戦の感覚は味わえなかった。


今日は宮崎の地本チームと練習試合だった。


1本目はフラビオが5ゴールを決めて5−0の圧勝。


2本目は天野さん、俺、マイケルのゴールで3−0の勝利。


3本目はマイケルのハットトリックで3−1の勝利だった。




試合後、天野さんが「ナイスプレー」と声をかけてくれた。


天野さんのゴールは俺が出したスルーパスを決めたものだった。


天野さんに今まで感じた疑問を聞いてみた。


「何でフラビオは1本目しか出ないんですか?」


これまでの練習試合、フラビオは全て1本目しか出場していない。


神戸戦も1本目唯一のゴールを決めたのにも関わらず、だ。


今まで疑問だったが、清水さんの時のように騙されるのが嫌だったから言わなかったけど、気になってしょうがなかった。


「‥‥まぁ色々あったみたい。俺も詳しく知らないからブエゴに聞いてみな。多分マッサージ受けてると思うよ」


天野さんはそう言ってマイケルの方に歩いていった。




天野さんの言った通り、ブエゴは女池さんにマッサージをしてもらっていた。


「お、亀山か。どうしたんじゃ?」


女池さんはブエゴにマッサージをしながら聞いた。


『ブエゴ、質問があるんだけど』


スペイン語で聞くとブエゴが驚く。


『スペイン語話せたのか?』


『少しね。友達の母親に教えてもらったんだ』


『そうか‥‥で、質問ってなんだ?』


『何でフラビオは1本目にしか出ないんだ?』


俺が聞くとブエゴはしばらく考え込む。


『聞いてどうする?』


『‥‥フラビオはなんか辛そうにプレーにしてる。サッカーはもっと楽しくやるべきだ。どんなことがあっても』


俺がそう言うと、ブエゴが笑った。


『いいよ、教えてやる。清水を変えたお前なら、フラビオも変えられるかも知れない』


ブエゴはそう言って話し始めた。




『あいつは元々がむしゃらにプレーをするタイプのフォワードだった。今じゃ面影もないけどな』


今のフラビオはワンタッチゴーラーと呼ばれるクロスやパスを合わせて点を取るタイプの選手だ。


『17歳の時にブラジルのクラブでトップに上がった。だけどそこの監督はかなりの人種差別者でな。日本人の血が混ざってるというだけであいつをプレーさせなかったんだ』


『日本人?』


『ああ、あいつ日系3世だぞ。父親が日本人とブラジル人のハーフ、母親がウルグアイ人とカメルーン人のハーフなんだ』


そんなこと初耳だ。


『だからフラビオは移籍させてもらえるようチームのフロントに訴えた。だけどチームは移籍させようとはしなかった。敵として戦うのは困るからだろうな』


『それって‥‥』


『あぁ。飼い殺しってやつだ。フロントの答えはいつも同じ、実力は認めてる、もう少し待て‥‥ってね』


『そんなことが‥‥』


『有り得るんだよ、実際。それから2年くらいたってからチームを辞めて日本に来たんだ』


『何で日本に?』


『クラブに国内クラブに移籍しないことを条件に出されたからな。だから今の監督を頼ってこのチームの練習生に、そこから正式に契約したんだ。加入した年はチームの得点王になったんだ。だけどその年、東京は新しい外国人フォワードの獲得を計画して、フラビオを他クラブに移籍させようとした。解雇だと移籍金が発生しないからな。だけど新しい外国人フォワードが獲得に失敗した。それと同時にフラビオの残留が決まったのさ』


『そんな‥‥人を物みたいに‥‥』


『フラビオもそう思ったのさ。だからやる気を無くした‥‥サッカー界に絶望したのかもな。プレースタイルが変わったのもそれから。金になる仕事だけをこなすだけの選手になっちまった。だから調子を調えるためだけに練習試合に出てるのさ』


『そんなことが‥‥』


『プロスポーツの世界ではよくあることさ。それに、お前と会ってからちょっと変わってきてる』


ブエゴが笑う。


『え?』


『いつもは練習で手を抜くあいつがお前が入ってからはあまり抜かなくなった。お前のプレーを見て昔を少し思いだしたのかもしれない‥‥』


マッサージを終えたブエゴは立ち上がる。


『後少しだ。昔の気持ちを完全に思い出せば‥‥このチームは劇的に変わる』


ブエゴが俺の肩を叩く。


『頼んだよ、明日の試合』


明日はこのキャンプの締め括りとも言える水戸との練習試合だ。


『あいつを‥‥立て直してやってくれ』


フラビオの身体能力と技術に、ひたむきさが足されたらどんな選手になるのだろう。


多分俺なんかが手の届く範囲にはないだろう。


それは、俺の出場機会が減る可能性があるということだ。


『分かった』


それでもそう答えたのは、フラビオの本当の力を見てみたいと思ったからだった。


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