第1話プロ入り?
未だに「ネギま」の連載が終わっていないのですが新連載始めます。よろしくお願いします。
なお、小説内に出て来るチーム名は架空のチームです。
人生はたいてい自分の思った通りには行かない。
世の中にはいい意味でも悪い意味でも、全く想像してないことがいくつも起こる。
もちろん、俺の人生も例外で無く―――
「ウチのチームに来てくれませんか?」
よもや、そんな言葉を聞くなんて、想像もしてなかった。
まさか俺が―――
Jリーガーになるなんて‥‥
時間は少し戻り―――
俺、亀山俊彦は高校選手権に出場していた。
だけど―――
『試合終了ー! 選手権初出場の駒坂高校、2回戦で敗退です!』
『惜しい試合でしたけどね、東新に諏訪がいて駒坂にがいなかった、というだけの差でしたね』
『それだけ諏訪君の存在は大きかったということですか』
『そうですね。せめて駒坂に野々村ぐらいのゴールキーパーがいれば、結果は変わっていたかもしれませんよ』
『それでは、その野々村キャプテンに話を聞いて見ましょう――』
選手権初出場だった駒坂高校は1回戦を1−0で勝利したが優勝候補の東新学園と戦い、0−1で敗れた。
駒坂のシュートは京都に内定していた野々村に防がれまくり、鹿島に内定していた諏訪にフリーキックのこぼれ球を決められ負けた。
そしてこの日、俺の高校サッカーは幕を閉じた。
「お疲れ様、俊彦!」
ロッカールームで一番に笑顔で声をかけてくれたのは幼なじみでマネージャーの海空姫花流だった。
小柄でいつから切ってないか分からないぐらい長い黒髪をたなびかせてる。
底抜けに明るい元気な奴だ。
「‥‥ありがと」
「なにしょぼくれてるの! アンタらしくないわよキャプテン!」
いつもこいつが俺を茶化すときキャプテンと呼ぶ。
いつもなら何か言い返すところだけど、今日はそんな元気もなかった。
「みんな、揃ってますね」
>そう言って皆の前に立ったのは駒坂高校の監督である小山幹久。すごく温厚な性格で、凄くフレンドリーな人だ。
>
「みなさん、お疲れ様でした。とても‥‥いい試合でした。」
啜り泣く声がする。
「負けてしまいましたが、あなたたちは何も恥じることはありません。あなたたちの人生で今日という日はかけがえのない思い出になります。この思い出を大切にしてください」
「ハイっ!」
チーム全員で返事をすると小山監督はニコッと微笑んだ。
何気なく姫花流を見ると、ついさっきまで元気だった奴が涙ぐんでいた。
さっきまで無理矢理笑っていたのかと思うと、心が痛んだ。
「亀山、これからどうするの?」
ロッカールームを出てからすぐに話し掛けて来たのは幼なじみの山原孝文。
既にサッカーの強豪TAKADA.S.Cのある高田印刷に内定をもらっている。
茶髪の短髪で、(試合の間は外しているが)耳にイヤリングをしている、チャラい感じの男だ。
勿論、見た目と違って中身はしっかりした奴だ。
「帰るけど」
「そうじゃなくて、進路のこと」
「まだわかんないけど‥‥就職決まってないから就活しながらフリーターかな? あんまり迷惑かけられないし」
「何バカなこと言ってるの! 今日から猛勉強だよ!」
姫花流が会話に加わって来た。
「え〜‥」
「え〜じゃないの! 教えてあげるからさ」
姫花流は成績優秀で日本最高峰クラスの一流大学も狙えるのに、本人いわくプレッシャーに弱いっつうことで地元の二流大学に行く予定だ。
「亀山君」
監督が俺を呼んだ。
「なんですか?」
「君と話したいって人がいるから、行って来てあげて下さい」
「話したい人?」
「ええ‥きっとびっくりしますよ」
「なんでお前ら着いて来てんの?」
監督に言われた場所に行こうとすると、姫花流と山原もついてきた。
「だって‥‥気になるもん」
姫花流がちょっと心配そうな顔をした。
「女だったら姫がこま」
「言うな!」
山原が全部喋り終わる前に海空にげんこつされた。
「痛っ! ホントのことなのに‥‥」
「うっさい!」
山原がまた叩かれた。
ちなみに『姫』は姫花流のあだ名。
俺以外の3年はみんな姫花流のことを姫と呼ぶ。
「あ、あそこだ」
じゃれあってる二人を無視して監督に教えてもらった場所に着いた。
「ここで待ってるの?」
「監督はそう言ってたけど‥‥」
しばらく待っていると、ベンチコートを着た髭面の男が近付いて来た。
「君が亀山俊彦君?」
「そうですが‥‥」
「私、こういう者です」
そう言いながら男が名刺をくれた。
「東京ミストラル強化部部長、北條道雄‥‥」
「はい」
東京ミストラルはJリーグの昔は名門と言われていたが、現在はJ2に降格したチームだ。
「プロのスカウトの人が、俺に何の用ですか?」
「単刀直入に言います―――亀山君、ウチのチームに来てくれませんか?」
「え?」
自分の耳を疑った。
とても信じられなかった。
「ご存知でしょうが、東京ミストラルは去年J1から降格し、選手が大量に移籍しました。そこで、あなたが必要なのです」
「俺が‥‥」
「気持ちが決まったら、ここに電話してください」
北條さんはそう言いながら名刺を軽く叩き、去って行った。
「これって‥‥スカウトだよな?」
山原が俺に聞いてくる。
「多分‥‥」
「俊彦、凄いじゃない!」
「うん‥」
ホントはとても凄いことで、名誉なことだと思う。
だけど自分でも驚くぐらい実感がない。
「うん‥じゃないよ! 凄いよ! Jリーガーだよ!」
姫花流は凄く興奮している。いつも以上に声がでかくなる。
「プロに‥‥なるのか?」
山原がまた俺に聞いてくる。
「さぁ‥‥分からない」
俺は正直な気持ちを伝えた。
「何で? 選ばれた人しかなれないんだよ? チャンスだよ!」
「まぁ、そうだけど‥‥」
俺だって本当はプロでやりたい。
でも、恐い。
俺がプロで通用するか、分からない。
いや、多分通用しないだろう、という不安の方が強い。
そんな時、山原がまるで心を読んだみたいに、強い口調で言ってきた。
「ビビってんじやねぇよ、らしくねぇ。どうせ何選んだってな、たいていは最後に後悔することになる。だけど、チャレンジしておけば、後悔しない可能性が僅かだけどある。今しか出来ないことやっておけよ、大学や就職なんてそれからでも遅くない」
「うん‥」
「お前が立とうとしてる舞台は姫が言った通り選ばれた人間しか立てない舞台。お前は何千何万の中から選ばれた人間なんだよ。胸を張れ」
山原がニッと笑う。
「‥‥ありがと」
「もし駄目なら私達がついてるよ」
今度は姫花流が言う。
「俊彦を一番応援してたのは――私なんだから」
姫花流が顔を赤らめながら言う。
「ちっちゃい頃言ってたでしょ? プロになりたいって‥‥」
そんなこと、とっくに忘れてた。
でも、確かにそうだった。
まだ夢を持つだけだった頃の話。
こいつは覚えてくれてた。
「‥‥俺、やるよ。プロになる」
「そうこなくっちゃ!」
姫花流が俺の肩を強く叩く。
「じゃ、俺がプロ行くまで待っててよ」
山原がそんなこと言い出した。
「約束覚えてないのか? 二人でJのピッチで試合しようって」
「あぁ‥」
そんなこと言ってた気がする。
「忘れてたな」
「うん」
「ったく」
山原がまたニッと笑う。
「俊彦、いまなら走れば間に合うよ!」
「あぁ、伝えて来る!」
そう言った時には走り出してた。