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3話

 歩き始めて千歩歩いたときに、本当に今日の罰は温いなと思った。森に挟まれた道を歩いているのだが、たったの一㎞歩く前に千歩を達成してしまった。ゆっくり歩いても、二時間ほどで一万歩を歩けてしまうだろう。

 

「ご主人もいじめのネタが尽きたんですかね? それとも数の設定を間違ったのでしょうか?」

 一万歩。最初はその数字に面を食らったが、歩いてしまえばこの程度の距離だ。あの富豪は歩く機会が少なくて、一万歩がものすごい数だと思い込んでしまったんだろう。そう思うと、カリナは少しいい気味だと思えてうれしかった。

 しかし、一万歩歩いて主人に報告に行ったとき、それは絶望に代わった。

 

「証明は?」

「証明……と、申しますと?」

 カリナの質問に、富豪はいやらしい笑みを浮かべる。

「一万歩歩いたという証明に決まっているだろう? 私は命じたのだ。私の命令は完全にして絶対だ。そこには一切の誤魔化しは許されない。一万歩歩いてきたのだという証明を見せたまえ」

「そ、それはできませんが……。ですが、森の出口まで歩いて帰ってきたのですよ? 距離を考えれば……」

「私はあまり自分の足で長い距離を歩いたりしない」

 カリナはハッとして主人を見た。

「だから一万歩が何㎞くらいなのかなんて見当がつかないなぁ?」

 

 カリナは唇を噛んだ。自分が甘かった。そんな甘い罰で済むわけがなかったのだ。

 今すぐ、一万歩がどのくらいの距離かもわからないのかと怒鳴りつけてやりたい。でも、それをした時の叱責は、嫌がらせの域を大きく超えることをカリナは知っている。

 

「わかりました。では改めて歩いてくることにします」

 カリナはそう言って部屋を出た。

 

 カリナは紙とペンを用意し、一歩歩くことに紙に印を書き込んでいった。すでに一万歩歩いていて足は疲労している。軽い運動くらいだと言えばそうだろうが、能動的にやるか罰としてやるかでは意味合いが大きく違う。加えて今回は、紙に印を描きながら歩かなければならない。足元に注意が向かず、石やくぼみに足をとられて何度も転んでしまった。

 そして何とかもう一度一万歩歩き終わり、再び報告に戻ったのだが……。

 

「こんなもの何の証拠になるというんだ?」

 主人の答えは無常だった。

 

「紙に印をつければいいだけではないか。これが歩いた数だとどうして判断できる?」

「私を見てください! 途中何度も転び、服に土がついております!」

「この私に口答えをするというのか?」

「……」

 

 カリナは再び口を閉ざす。来たばかりのころは反論していらない鞭打ちを何度ももらっている。やがて学習し、何も言い返さないように努めているが、たまに口答えをすれば、いつも以上に厳しい罰が待っている。

 

「っふ! まあいいだろう。とにかくこの紙は何の証拠にもならん」

 富豪はそう言って紙をゴミ箱に捨てる。

「では……また改めて歩いてきます」

 

 堪える。とびかかっていきたくなるのを何とか堪えて部屋を出る。服をぎゅっと握り、歯をかみしめて怒りを抑え込んだ。

 

「足跡の数なら……」

 カリナはそうつぶやいて三度屋敷を出る。

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