1話
肌寒い春の風が吹く砂浜。その砂浜に、女が一人歩いていた。
歳は二十前後だったはず。捨てられた子供だから、女自身も自分の正確な年齢を知らなかった。名前はカリナと言う。
「……」
肌寒く、もの悲しい砂浜とはいえ、景色が悪いわけではない。むしろ、寄せて返す海の波は美しいし、そばに広がる森が風に揺られる光景も、見る者を魅了するだけの魅力はある。
しかし、カリナの表情は暗く、俯いたままだった。周りの光景になど目もくれず、何も見ないようにするかのように足元だけを見て歩いている。
いや、カリナは何も見ないようにしているわけではない。カリナは足元を見て歩いているのだ。もっと正確に言えば、足元に広がる砂浜を見つめて歩いている。
カリナの歩く砂浜。ここはある富豪の所有しているもので、誰も入ることはできない。カリナがここには入れているのは、カリナが仕えている主人がその富豪だからだ。
そんな砂浜なのに、そこには足跡が大量についていた。それも砂浜を右から左へ、規則正しく往復したかのような不可解な足跡が……。
そう、その足跡はカリナ一人によって残されたものだ。
「私はどうして砂浜を歩いているのでしょうか……?」
もちろんカリナはその理由を知っていた。
今日中に投稿し終わる短い話です