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今日から僕は 16

「先生!いらっしゃい!」 

 誠とカウラがシミュレーションルームに入ると、すぐにパイロット用スーツを着たアイシャが声をかけてきた。胸を強調するようにも見える体にフィットしたウェットスーツのように見えるベース。肩や膝、胸の周りなどを防護するスーツを着れば確かにアイシャがパイロットであることが良くわかった。彼女の髪の色に合わせるように銀色と紺の色が精悍なイメージを誠に植えつける。

「アイシャ!貴様が何でそんな格好をしている?」

 カウラはいきなり不機嫌になり、ニヤニヤ笑っているアイシャをにらみつけた。 

「ご挨拶ねえカウラちゃん。私もパイロット経験あるんだから。それに私だけじゃないわ」 

 ついたての向こうから歩いてきたのは、明華、リアナ、そしてパーラだった。

「確かベルガー大尉の端末にここの予定表入れといたはずだけど、まだ見てないの?」 

「先ほどのメールはこの件だったのですね。許大佐」 

「そういうわけだから。カウラちゃんはそこのモニターで観戦でもしていけば?」 

 リアナがいつもののんびりとした笑顔をカウラに投げた。

「そう言う事なら自分も……」 

 明らかにアイシャを意識しながらカウラがつぶやく。それを見てぱっと表情が明るくなるアイシャ。

「そうね。じゃあカウラもやっていけば?いいですよね、姐御にお姉ちゃん」 

「アイシャ。何で鈴木中佐はおねえちゃんで私が姐御なんだ?」 

 きつい視線を浴びせる明華と、とぼけるようにしてシミュレーターに乗り込むアイシャ。リアナとパーラは呆れたような調子で、隣に並んでいるシミュレーターの扉に手をかける。

「別に二人ともその格好でいいわよ。それとカウラちゃん。ちょっとは手加減してよね」 

 そう言い残してリアナはハッチを閉じる。取り残されたパーラも、苦笑いを浮かべながらシミュレーターに乗り込んだ。

「神前少尉。それでは我々もやるぞ」 

 釈然としない。そんな顔をしてカウラもシミュレーターに乗り込んだ。誠もその後に続く。

 乗り込んだ誠。やはり何度座ってもシミュレータの雰囲気になれることができなかった。体は確かに操作方法を叩き込まれていて自然と機体の機動とモニターの設定のための作業を終える。

「全員起動終了したわね。チーム分けは実働部隊対支援部門と言うことでいいな」 

 モニターの中の明華の一言に頷くアイシャ達。だが、相変わらずカウラは渋い顔をしていた。

「許大佐!チームバランスが悪いような気がするのですが?」 

「カウラちゃんは心配性ねえ。私達はここ5年は実戦経験してないのよ」 

「ですが、鈴木中佐」 

 カウラは二人の上官の提案に食い下がっている。その理由は誠も先日のシミュレーションの経験からよく分かっていた。明華、リアナともに誠を鍛えてくれた東和第三教導連隊の教官を凌ぐ腕だ。当然アイシャも素人の動きなどしてはくれない。

 前回のように戦力が拮抗していればチャンスは生まれるが、今回は数の上でも劣勢。また彼の機体の武器は腰にぶら下げたサーベル一本。所詮、囮ぐらいの役にしか立たない。

「まあいいです。今回の出動では数の上で劣勢になるのは明白ですから」 

 あきらめた。言葉の裏からそんな気持ちが伝わってくるようにカウラがつぶやいた。

「では始める。私は四式改を使用するが、まあハンデとでも思ってくれ」 

 明華は誠達に告げた。画面の中に嵯峨の愛機の黒い四式改の姿が映る。誠はそれが『もっとも美しいアサルト・モジュール』と言う模型雑誌の特集の表紙を飾っていたことがあるのを思い出して苦笑いを浮かべた。

「重火器での制圧射撃メインか。神前少尉。許大佐は貴様が担当しろ。私は残りの三人を叩く」

 秘匿回線でカウラはそう告げた。

「ですがベルガー大尉。僕の機体は飛び道具無しですよ」

 相変わらずの弱気な誠にカウラの表情がさらに険しくなる。 

「分かっている。しかし05式の運動性能があれば、そうそう直撃弾は食らわないはずだ。もっとも、その自信がなければ別の策で行くが」 

 挑発している。それはわかる。そしてそんなカウラには言っていい言葉は一つしかなかった。

「やらせてもらいます!」 

 誠はそう言うと深呼吸をした後、操縦棹を握った。

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