ぼく
ぼくは今、教科書やノートの山積みになった勉強机の下にうずくまって座っている。台所の方からは、楽しそうな笑い声がハンバーグのいい匂いとともに聞こえてきた。
ある日の夕暮れ時のことである。ぼくは、女の子に手を引かれて、この家にやってきた。はじめは、慣れないぼくのことをみんながとても優しくしてくれたのを今でも覚えている。仲良く一緒に遊んでくれた。食事も一緒にしてくれた。お出かけにも連れてってくれた。そんな幸せな日常は、ある日を境になくなってしまった。それは、その家の女の子と公園で遊んでいた時のこと。ブランコに乗っていたら、手をうっかり滑らせて地面に体を大きく強打してしまった。ぼくは、顔に大きな傷を作ってしまった。
それからというもの、ぼくは顔の傷が醜いと周りにいじめをうけたり、しまいには家の女の子ですら、ぼくと遊ぶのが恥ずかしいといって遊ばなくなっていった。むきになって漂白剤で顔の傷がなくならないか、そう思って試してみたが、だめだった。ぼくはただ、昔のように愛してもらいたかった。ただ、それだけだったのに。ぼくは、外を眺めた。ぼくの目にあったのは、孤児院だった。あそこなら、ぼくを引き取ってくれそうだ。ぼくは、決心した。勉強机の下から抜け出すことを。もう一度、こんな醜いぼくでも愛してくれる、遊んでくれる、扱ってくれる子供を求めて。いつまでも…