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君を描く  作者: さきち
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花水木

四月も半ばを過ぎ、いつの間にか後半に差し掛かっている。桜はすっかり緑色になり、山も白みがかった萌黄色になって来た。赤味がかった芽が日に日に緑色を増していき、やがて新緑の黄緑色が山を彩る。ヤマツツジの紫色がアクセントになっていて美しい。


今日の講義が全て終わり、情報館で小説を物色していたら涼先輩に出会った。彼はツンツンした黒髪に少し細い目をしている。細身で背が高いのに威圧感が無いのは、身に纏う気さくな雰囲気だからだろうか。あれから会っていなかったので、久し振りな気がする。

「みっちゃん、久し振り。」

「そうですね。お久し振りです。お元気ですか?」

「みっちゃんから、文句のメッセージが来て以来、連絡がないので寂しい。」

涼先輩は大袈裟に腕で自分を抱く様にして見せた。

「…用事がある方が、連絡すればいいのでは?」

「良いの?しても?」

顔をパッと輝かせて、言う。

「…?良いですよ?遠慮してたんですか?」

「うん。自分からはしないって言っちゃったし。」

「あぁ、そう言えば言ってましたね。ちゃんと約束守って偉いじゃないですか。」

意外と真面目なんだなぁ。

「でしょ?有言実行の男なのですよ。こう見えて。許可してもらったから、じゃんじゃんしちゃおうかな?」

「ほどほどにしてください。」

じゃんじゃんはさすがに面倒くさい。

「つれないなぁ。ちょっと、みっちゃんが不足してるので、補充してくれない?」

「…しょうがないなぁ。」

私は笑いそうになるのを堪えて、涼先輩に近付く。つま先立ちをして、頭をよしよししてあげた。

「チュウとかの方が良いんですけど。」

不服そうに涼先輩は言う。

「こんな人の目がある所で出来ません。」

私にも羞恥心と言うものがある。

「え〜、足りないんですけど?」

「そんな事言われても。」

「じゃあ、うち来て?」

にこにこしながら、涼先輩は私を見つめる。

「…しょうがないなぁ。」

本当に寂しがり屋なんだから。


涼先輩と一緒に大学の門を出て坂を下る。夕方でも6時ぐらいだとまだ明るくて、新緑の木々を見て目を細めた。

「何見てんの?楽しそうだけど。」

涼先輩に言われて初めて、顔が笑っていた事に気付く。

「花水木が綺麗だなって思って。」

「ああ、白いのとか、濃い桃色のとか薄い桃色のとかあるよね。」

涼先輩も一緒に、家々の庭に咲いている花水木を見上げる。

「花水木って枝のてっぺんに花芽が付くんです。空に向かって咲いてるんで、清々しい感じで好きなんですよね。一生懸命空に手を伸ばしてるみたいで。桜の花って、下向きに咲くから、見上げた時に綺麗だなって思うんですけど、花水木って逆で、どっちも好きなんですけど、桜が儚さを感じさせるのに比べて、花水木の方は逞しさを感じます。生き生きしてて好きなんですよ。」

「みっちゃんのそういう話結構好きかも。もっと喋ってよ。」

そんな風に言われると少し困ってしまう。何を喋ろうかと考えて、思い付いた事を話し出す。

「ソメイヨシノが終わると、八重桜が満開になるじゃないですか?」

「ああ、大学にも木があったね。丁度今の時期だ。」

花のつき方がポコっと丸いのが一杯付いていて、なんとも可愛いのだ。色もソメイヨシノより濃くて、ふわふわの花弁が華やかで。

「あれ見てると、桜餅が食べたくなります。葉っぱの赤みがかった感じが、塩漬けの桜の葉の色によく似てると思いません?」

「確かに。」

「しかも関西風の、道明寺粉使ったやつ。ポコっとした形が可愛いんです。」

「なんか、食べたくなってきた。」

ふふ、そうでしょう?食べたくなるんだよね。

「コンビニで買いましょうか?今の時期ならありそう。」

「良いね。」

先輩も笑顔だ。

「緑茶も一緒に買いましょう。」

私達は笑いあって、コンビニに向かった。


残念ながら、コンビニには桜餅は無かった。そして今スーパーに来ている。涼先輩ったら、普段はコンビニ弁当かバイトの賄いらしくて栄養状態が心配になった。何か作りましょうかって言ったら、えっ!良いの?なんて嬉しそうに言うものだから、現在食材をカゴに入れているところだ。

「桜餅あって良かったですね。」

桜餅と草餅がセットになった四つ入りのものを選んだ。草餅も美味しいよね。

「そうだね。もう、凄く食べたくなってたからさ。」

涼先輩は嬉しそうに桜餅を見ている。

「何食べたいですか?」

「ポテトサラダ食べたい。」

「手間がかかる割には、メインにならないものを選びますね。」

まぁ、私も好きだから良いんだけど。多少のこだわりもあるし。

「えー、そう?好きなんだもん。」

「しょうがないなぁ。他は?」

6個パックの玉子やジャガイモ、きゅうりや人参やらを入れていく。

「カレーとかハンバーグとか。」

「お子ちゃまですね。」

「男って単純な舌なのよ?」

「そうみたいですね。」

調味料とかも買っていったら結構な量になった。袋がずっしり重い。これはチョコチョコ作りに来ないと、無駄になりそうだななどと考える。まぁ、料理は好きだからいっか。


涼先輩が袋を持ってくれて、スーパーを出た所で、意外な人物に出会った。名前は確か、三嶋樹君だったかな?目が合って、会釈してすれ違う。

「知り合い?」

先輩が聞いてきて、この前モデルになってもらった事を話す。友達の友達だとも。

「どっかで見たような気がする。」

どこだったっけ?う〜んと唸って考えてる先輩に助け船をだす。

「デザイン科の一回生みたいですよ?」

じゃあサークルかなぁと先輩は言って、僕映画サークル入ってんのと続ける。

「ちなみに元部長だったりする。」

「…部長って、もっとしっかりした人がなるんじゃないんですか?」

「みっちゃんの中の僕のイメージが酷い。」

ガックリ肩を落として涼先輩は、いじける。

「あ、でも基本世話焼きですよね。」

フォローしないと面倒そうだ。

「そうでしょ?手取り足取り教えてあげたでしょ?」

ニヤリと笑って私を見る。思い出して恥ずかしくなった。もしかして仕返しされてる?

「…そうでしたね。」

出来るだけ平たい声で返す。

「耳赤いよ。」

「気のせいじゃないですか?」

顔を見られない様に、私はさっさと歩き出す。後から先輩が付いて来る気配を背中で感じた。

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