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君を描く  作者: さきち
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葵と遊

遊から相談を受けたのは、学内の葉桜がほとんど散った頃だっただろうか。妙に硬い文章で相談を持ちかけられた。深刻な事だろうかと身構えて、学食の二階のカフェスペースで待っていた。飲み物は遊に奢らせようとの腹積もりで、まだ買っていない。パン屋さんから良い匂いがして来て、美月がシュガートーストが美味しいと言っていたのを思い出す。待ってる時間も勿体ないので、パン屋を物色しようと席を立った所に遊が来た。

「ちょっと、パン屋見たいんだけど良い?」

「俺も見る。」

私はクリームパンを、遊は焼きそばパンを選んでレジに持っていく。自販機でカップのカフェオレを奢ってもらい、席に着いた。


「で?相談て何?」

カフェオレが冷めないうちに口をつける。

「美月の事なんだけど、アイツ新歓コンパの時にお持ち帰りされてたんだよ。」

「へぇ、やるわね。」

もっと臆病だと思っていたけど、進歩したんだろうか。なぁんだ、深刻な話じゃないじゃない。心配して損した。

「え?何その反応?予想外なんだけど。」

遊が驚いた様にこっちを見ている。

「遊こそ何狼狽えてんの?美月の勝手じゃないの。」

「…そうだけど。付き合ってないのにするのってどうよ?」

「美月は恋愛に関しては臆病だから、気楽だったんじゃないの?」

あぁ、多分そうだな。ハードルが低かったに違いない。

「は?臆病?興味無いって言ってただろ?」

「興味ないと言うより、怖がってたみたいだけど。」

「怖いって、寄って来た男どもを切り捨てていたじゃないか。1ミリの躊躇もなく。」

「興味が無いのもあるかもだけど、怖いから切ってたのよ。多分。」

「何で?」

「本人からハッキリ聞いた訳じゃ無いから私の憶測だけど、好きって言われると引いちゃうんじゃないかな?」

「は?嬉しいんじゃないの?普通。」

コイツ単純だからなぁ。そういう思考回路な訳だ。

「う〜ん。こっちが好きでもないのに来られると、引く場合もあるでしょ?喋ったことすら無い相手とか。ナンパとか。」

「ああ、ちょっとだけ分かる様な気がする。俺だと結構嬉しかったりするけどね。」

単細胞め。私はクリームパンを一口食べて、カフェオレを飲む。

「そういう、引く感じが人より強いんじゃないかと思うんだよね、美月の場合。」

「じゃあ、何でお持ち帰りなんてされる訳?ナンパと変わらないでしょ?」

「さぁ?お酒飲んで理性が飛んでたか、単純にタイプだったかどっちかじゃないの?そういう事が目的なら、後腐れなさそうだし気楽だったのかも?」

「…タイプ。」

「美月って直感で生きてるとこあるから、何かが琴線に触れた可能性もある。女って匂いで遺伝子嗅ぎ分けちゃうから。」

「う〜ん。遺伝子かぁ。」

眉間に皺を寄せて遊は唸っている。男には分かりにくい感覚だろうか。

「グイグイいくのは美月には逆効果だよ。気を付けてね。」

「…何で俺が気を付けるんだよ?」

「自覚してしまったから、相談に来たんじゃないの?」

「…何故分かる?」

バレバレなんだけど?遊って単純だし。

「前から薄々気付いてたから。遊が美月が気になってる事。」

「俺は最近気付いたのに。」

「お持ち帰り男に先越されて焦っちゃった感じ?」

ニヤニヤ笑いながら言ってやる。

「そうだけど。なんか、見透かされてるのがムカつく。」

「グイグイいこうかと思ってたのに、釘刺されちゃったって感じ?」

「…葵って心読めるの?」

驚愕の表情をしている遊の様子が可笑しくて、笑ってしまう。

「まぁ、一回こっきりの関係なら心配しなくても良いんじゃない?恋愛下手の美月にとって前進なのは間違いないと思うわよ?怖さが和らぐかも知れないし。」

「関係が続いてたら?」

「美月にとっては良い事だと思うけど。」

「俺にとっては?」

「……。」

私はふっと笑って言及を避けた。

「え?ちょっと!なんか言って?」

「私の立場としては、見守るしかないかな。それに、人の事ばっかりに構ってもいられないし。」

「彼氏でも出来そうなの?」

「まぁね。」

「ふーん。」

普通、友達の恋愛への反応なんてそんなもんだ。美月の時と全然違う反応なのに気付いているだろうか?本当に分かりやすい。

クリームパンを完食して、カフェオレを飲み干した。遊も何やら考えながら、焼きそばパンを齧りつつパックの牛乳を飲んでいる。

「じゃあ、行くわ。」

遊は立ち上がって鞄を背負う。

「うん。じゃあね。」

私は遊を見送りつつ、思考に耽る。


私が好きになった人は、周りの評判がすこぶる悪くて、やめておいた方が良いなんて言われてしまうのだけれど。

自分が傷付く予感しかしないのに、そこに身を投じようとしている私は馬鹿なのかも知れない。

でも、どうしようもなく惹かれてしまうのだから仕方ない。


変化の季節が来たのかも知れない。みんなにも、私にも。

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