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君を描く  作者: さきち
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遊と美月2(高校編)

幸せな時間というのは、どうして唐突になくなってしまうのだろう。


俺には付き合ってる彼女がいる。進路も違うし、受験の間は会う回数少なく我慢している。会いたい気持ちもあるんだけど、それどころじゃないと言う気持ちもあって。でも向こうは違うようですぐに会いたがる。受験だからお互い我慢して頑張ろうって話し合ったのに、そんな彼女の態度に少しげんなりしてしまう。時間は有限だ。受験生に簡単に消費される時間などあってはならないと思う。

思えばこんな事から齟齬が生じていたのかもしれない。そして人が大切にしている時間までも奪おうとする。彼女は俺と美月が一緒に塾通いをしているのが気に入らないらしい。


「だから、何で一緒に行く必要があるの?」

彼女の美優が怒った声で聞いてきた。

「喋って行った方が楽しいじゃないか。」

いい勉強にもなるし。

「そうかもしれないけど、水川さんって綺麗だから心配で。」

「ただの友達だから。同じ場所に行くのに、別々に行くのって変じゃない?それにあいつサバサバしてて、女っぽくないし。」

見た目はともかく、性格はどっちかというと男っぽいと思う。

「それでもやっぱり心配で、不安になるんだもん。」

何とかなだめるために抱き締めて頭を撫でた。

「大丈夫だって。恋愛感情無いし。あいつも俺も。」

勘繰られるような関係じゃない。

「みんなが噂してる。水川さんあまり男子と喋んないから。付き合ってるって。」

「あー、恋愛感情持たれたく無いから喋らないんだって。興味無いって言ってたよ?俺は彼女持ちだから安心みたいだし。」

「向こうは安心かもしれないけど、私は不安になるの!なんで遊なの?」

目に涙を溜めて美優が言う。泣くなんて反則じゃないか。

「…分かったよ。もう一緒に行かないから。」

この剣幕だと俺が折れるしか無くて、一緒に行くのを諦めざるを得なかった。美月に話すと仕方ないねと言って納得してくれた。


美月がいない塾までの道は、色が褪せたように感じた。こんなにつまらなく感じるなんて。駅に着くまでに何度溜息をついただろう。

それが二週間程続いた日、自分にストレスが溜まっているのに気付く。何で自分だけが我慢しなければならないんだろう。制限を受ける事に苦痛を感じる。受験のストレスもあっただろう。考え出すと止まらない。

塾で課題が終わると、葵と美月がこっちに来た。

「大丈夫?遊、元気ないから心配。辛いのを我慢してるみたいに見える。」

美月が顔を覗き込むように聞いてきた。

「集中も出来てないみたいだし。」

葵も心配気に言う。

「一緒に帰ろう?」

美月が言う。

「行くのは禁止されてても、帰るのは禁止されてないでしょ?」

葵も言う。屁理屈だと思ったけど、嬉しくなった。自然と顔がほころぶ。


「帰ってからの晩御飯で、揚げ物だとぺしょってなってない?帰る頃には。」

美月が帰り道で話しだす。

「あ〜、わかるぅ。」

葵も追随する。

「オーブントースターで温め直せば?」

「すぐ食べたいの!お腹空いてるから。」

「2、3分くらい待てるでしょ?」

俺は呆れて言う。

「やっぱり、コロッケ買って食べよう!」

美月がコンビニへ走り出す。我慢できないらしい。

「私も食べる!」

葵も一緒に走る。なぜ走る?俺は二人を追いかけた。

美月と葵は美味しそうにサクサクのコロッケを頬張っている。結局俺も二人が食べているのを見て食べたくなって、コロッケを買ってしまった。サクサク感が堪らない。

やっぱり、二人と一緒にいると楽しい。強張っていた気持ちが解けていく様だ。

「二人共、ありがとう。」

俺は恥ずかしいので、小さい声で二人に告げる。二人は顔を見合わせて、笑い合う。

「どういたしまして。」

また明日から頑張れそうな気がした。


学校で美優に呼び出された。何だろうと思って行くと、昨日、美月と葵といる所を美優の友達に見られていたらしい。美優が恐い顔をしている。こんな可愛くなかったっけ?

「約束したよね?」

いつもより低い声で美優が言う。

「葵もいたし、二人きりじゃない。友達と一緒に帰ったらいけないの?」

「駄目。」

その取りつく島もない様子にイライラが募る。

「自分だって男と喋ってるくせに。自分は良くて人には駄目ってどういう事だよ。」

「…だって、友達だもん。」

美優は俯いた。矛盾に気付いたのかもしれない。

「美月だって友達だ!何で俺だけが我慢しなければいけないんだ?」

「それは…。」

美優は目を逸らす。

「俺はお前の行動を制限したりしない。交友関係にも口を出さない。だからお前も俺を縛らないでくれ。」

「縛ってなんか…。」

美優は泣きそうに顔を歪めた。

「縛ってる!美優は、俺の言葉よりもそいつの言葉を信じるんだ?」

「…違う。遊を信じたいけど、不安なの。」

俺は、あぁ、もう駄目だと思った。限界だ。耐えられない。

「…自分を信用してくれない人とはもう付き合えない。」

俺は美優にそう告げて、その場を立ち去った。

なんで上手くいかないんだろう。何が駄目だったんだろう。そんな事を考えてたら、涙が流れてきた。思わず上を向く。ぼやけた天井を見上げて、失望感を洗い流した。


一緒に画塾に行こうと美月を誘いに行った。周りなんて気にしない。もう我慢なんてしない。彼女は驚いた顔をしたけれど、一緒に来てくれた。陽が短くなってきたなぁと思いながら薄暗い道を歩き、駅を目指す。

彼女と別れた事を話すと、美月は動揺したような顔をして顔を歪めた。

「私のせいかな?」

消え入りそうな声で問う美月の目を見て、俺は首を振る。

「きっと色々噛み合わなくなってたんだと思う。」

「…そっか。」

美月は前を見据えて、寂しそうにぽつりと呟く。

「なんで上手くいかないんだろうね。」

彼女はそう言って涙を流した。本当に何でだろう。

「でもさぁ、自由を制限されるのってきついわ。」

例えそれが大切な人の望みだったとしても、受け入れられない事もある。

「…そうかもしれないね。」

俺たちの呟くような会話は薄暗い空に溶けていった。



志望大学に三人揃って現役合格できたのは、奇跡かもしれない。それ程の難関だったのだ。終わってみると、長かった様な短かった様な。ふわふわと地に足がついていない、現実感がない気分を味わう。

人伝てに美優が他の男と付き合いだしたと聞いた。自分でもあっさりとその事実を受け入れてしまうのに驚く。全然動揺しなかったし、これ程気持ちが離れてしまっていたのかと気付いた。二人の道は離れてしまったけれど、お互い幸せならそれで良いんだろう。


打ち上げと称して、三人でファミレスで合格祝いをする。

「これからもよろしく!乾杯!」

ドリンクバーで祝杯をあげた。注文したハンバーグを食べながら、色々な話をする。大学のことや、春休みにバイトする事、免許を取る予定だとか話は尽きない。彼氏出来るかな?と葵と美月が楽しそうに話している。俺も彼女が欲しいなとぼんやり考えた。きっとこの三人とそれぞれ彼氏彼女が出来たら、楽しいかもしれないなと考える。みんなで一緒に過ごせたら賑やかだろうな。


これからも、この三人の友情がずっと続く事を願った。

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