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化物とモノノ怪の宴  作者: 石上あさ
1/6

百眼__1

小笠原諸島にある文明の時計がとまったような島で、

ある日突然島民住民の病気が全て快復するという超常現象が起こった。


いまだ信仰心の篤い島民たちはこの超常現象を島に伝わる伝承になそらえて「災鬼喰らい」と呼んだ。

この噂は「災鬼喰らい」という名称とともにたちまち全国に広がり、

同時に各地から同様の科学では説明のつかない怪奇現象の報告事例があいついだ。


災鬼喰らいは人に禍福をもたらした。

すると今度は災鬼喰らいの力をその身に宿す人の存在が都市伝説として、

しかし、まことしやかに囁かれるようになっていった。

人々はそうした人間あるいは怪人たちを、同じように伝承になそらえて「モノノ怪」と呼んだ――。

 

 〇   〇   〇


カーテンを閉め切った部屋の中パソコンの画面だけが光っている。

その前に座る人間はいないのに、キーボードだけがひとりでに沈み、

カタカタ音を立てて文字を生み出していく。


やがて、とどめを刺すように一際強くエンターキーがタイプされ、

誰かが体を預けたかのように椅子の背もたれがぎしっと反った。

ディスプレイには次のような文字が表示されている。


『組織の陰謀か災鬼喰らいの祟りか⁉

突如失踪した敏腕ジャーナリスト佐藤の謎‼』


 〇   〇   〇

 

  佐藤沙穂がジャーナリストを志した動機は、

「ほかにこれといってしたいこと」もないから、というものだった。


 どこに行ったところで誰かに頭を下げながらこき使われることを避けられないと

 冷めた風で考えながら、強いて言うなら自分の欲求を少しでも満たせるところがいいと彼女は考えた。


 他人の秘密を暴くことができる、自分が情報の最先端にいる、

 世の中の裏側を覗けるジャーナリストという職種はいくらか彼女の興味を引いた。

 人間観察を趣味としている自分には適性があるとも思えた。

 他人と同じリクルートスーツに身を包み他人と同じ受け答えをした挙句、

 就職氷河期の荒波を乗り越えることに成功した彼女は嬉しさよりむしろつまらなさを感じた。

 

 それでも仕事は仕事。

 退屈さを吹き払うためにも彼女は勝ち取った役割に没頭した。

 少しでも大きな話題が、ちょっとでも刺激的なネタがなければ退屈さのために苛立ちが募った。

 傍目には勤勉に見えるこの働きぶりで彼女は着々と成果を上げた。

 自分の成功の裏でダシに使われた人間が人生街道を真っ逆さまに転落していくことになど

 なんの関心ももたなかった。


 おつむの足りないそいつが悪い、彼女の答えは常にシンプルだった。

 疑問をさしはさむ余地などない。

 彼女は世の中を極めて単純に考えていた。

 強いか弱いか、頭がいいか悪いか、ボロを出すか出さないか。

 人生の転落など所詮は身から出た錆。


 世の中には明らかに黒であり状況証拠もそうとしかいっていないのに

 平気な顔で政治の裏側を牛耳る人間がいる。そういうものなのだ。

 たかだか一介のジャーナリストに人生を左右するほどの弱みを知れられた人間が悪い。

 そんな奴は遅かれ早かれ自滅する。


 無論、彼女の人生が完璧だったなどとは彼女自身も考えていない。

 つまらない誹謗中傷の的になったり計画変更を余儀なくされたり、

 そういう経験は彼女にもあった。


 けれどそれは自分の過失ではない。

 余計な人間が自分の足を引っ張ったに過ぎない。

 それが佐藤の見解だった。

 その中で自分は、誰にでも付きまとうその種のマイナスを常に最小限に抑えてきた。

 それが落ちていく人間と、上がっていく人間の差だと考えていた。

 佐藤は自分では自らを割り切った、サバサバした女だと捉えていた。


 そんな仕事漬けの日々の中で、ある時佐藤の体に異変が起こった。


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